【議論】「日本」は「ニホン」か「ニッポン」か?
【議論】「日本」は「ニホン」か「ニッポン」か?
一見、わかりにくいと見える文脈や表現にこそ真骨頂がある。「わび・さび」「数寄」「まねび」……この国の〈深い魅力〉を解読する!
【写真】じつは日本には、「何度も黒船が来た」といえる「納得のワケ」
*本記事は松岡正剛『日本文化の核心 「ジャパン・スタイル」を読み解く』(講談社現代新書)の内容を抜粋・再編集したものです。
「にほん」と「ニッポン」の使い分け
私の著書に『にほんとニッポン』(工作舎)という本があります。私たちが日本を「にほん」とも「ニッポン」とも、日本人を「にほんじん」とも「ニッポンジン」とも発音してきたのはどうしてなのだろうか。理由があるなら知ってみたいという、そんな問題意識から、日本の歴史文化や社会文化にひそむ「デュアルな柔構造」をいろいろふりかえったものでした。
デュアルというのは双対的とか「行ったり来たり」とかリバーシブルという意味ですが、「デュアルな柔構造」という見方については、これは私なりの独自の見方なので、おいおい説明します。
それにしても、なぜ「にほん」と「ニッポン」があるのか。なぜ日本銀行がニッポンギンコーで、日本選手権はニホンセンシュケンなのか、その理由は結局はよくわかりませんでした。
オリンピックでは「Japan」とアナウンスされますが、入場する選手のユニフォームにはしばしば「NIPPON」と染められているし、国際試合で観衆が日本チームを声をあわせて応援するときは「ニッポン、がんばれ。ニッポン、チャチャチャ」です。「にほん、チャチャチャ」ではない。ニッポンという破裂音が入ったほうが勢いがつくのでしょう。おそらくその程度の理由です。
しかし懐石料理はそうはいかない。世界文化遺産になった日本料理は「にほん・りょうり」なのです。
日本郵便、日本電信電話(NTT)、日本電気(NEC)、近畿日本鉄道、日本通運、日本武道館、日本体育大学はニッポン。日本航空、日本大学、日本経済新聞、日本たばこ産業、日本交通はにほん。なんとも適当です。どこかが上場企業名の読み方を調査したところ、にほんが60パーセント、ニッポンが40パーセントでした。
いったい「にほん」と「ニッポン」の使い分けはどうなっているのか。こういうことはどこかで決めているのか。決まっていないとしたら、ほったらかしなのか。決めなくていいのか。多くの日本人もそんな疑問をもっていることでしょう。
国名が「にほん」でも「ニッポン」でもいいだなんて、これこそは日本人の「いいかげんさ」や「あいまい性」を根本からあらわしているのかもしれません(あるいはこういうところにデュアリティがあらわれているのです)。
桃山時代にポルトガル人が編纂した『日葡辞書』には、すでに“Nifon”と“Nippon”の両方が記載されています。かなり昔から二通りに呼ばれていたのです。そのころ「日本橋」という呼び名は江戸ではニホンバシだけれど、大坂ではニッポンバシになっていました。そんなところから、東西での言い方のちがいがあって、それを温存したので併称されたのではないかという意見もあります。
詳しいことは省きますが、江戸の文芸や歌舞伎や浄瑠璃の作品名や文中呼称などでも、ニホンとニッポンは混在してつかわれています。それが明治維新以降、一君万民の「大日本帝国」が登場するに及んで、少しニッポンが強くなった。
念のために書いておくと、昭和9年の文部省臨時国語調査会は日本の読み方を「にっぽん」に統一するという答申をしました。けれども、すでに巷にはニホンとニッポンが混在していたので、こういうお達しも効果をもてなかったようです。(抜粋)
https://approach.yahoo.co.jp/r/QUyHCH?src=https://news.yahoo.co.jp/articles/ea2c3e1592a366f44e0fbd327e8b05dd2879a53d&preview=auto
ニッポンには戦争の響きがある
ニッポン呼びは明治から戦中までだったらしい
ニホン軍
ニッポン軍
大阪の日本橋はにっぽんばし