【国際】中国ドローンが自衛隊空母「いずも」を模擬攻撃 “投稿動画”の衝撃とは…

【国際】中国ドローンが自衛隊空母「いずも」を模擬攻撃 “投稿動画”の衝撃とは…

中国のドローン技術の発展は驚くばかりです。日本も迅速に対応策を考えるべきですね。

 2024年3月26日、中国の動画投稿サイトに衝撃的な動画が投稿された。横須賀基地に停泊する、無防備な護衛艦いずもの真上を中国人が操縦するドローンが飛行しているかのような動画だったのだ。

防備な護衛艦いずもを悠々と撮影した、挑発的な中国ドローンの映像

 3月26日、中国の動画投稿サイト『bili bili動画』に「我开飞机降落日本航母(不是游戏!!!」(私は飛行機を操縦して、日本の空母に着艦した。ゲームにあらず!)という挑発的な題名の動画が投稿された。

 現在は削除され、X(旧Twitter)に転載された動画が残るのみだが、わずか19秒の動画ではドローンが海上自衛隊最大の護衛艦いずもを後部甲板から前部甲板へ飛行したように見えるものとなっている。

 もし事実であれば、従前より危惧され、米国でも頻発しているドローンの軍事施設への接近事態が発生したことになる。実は航行中の米艦隊や米本土の空軍基地に不審なドローンが接近する事案が頻発しており、挙句の果てにはエアフォースワンにまで接近された例があるなど、当局も対応に苦慮しているのである。

 民生小型ドローンは運搬できる炸薬が少なく、脅威ではないとする意見もある。しかし、仮にイージス艦のフェイズドアレイレーダーを損傷させれば探知能力は大幅に低下し、ミサイルの誘導を行うイルミネーターを破壊すれば対空ミサイルの機能は無力化し、艦橋を破壊すればCIC(戦闘指揮所)が無事でも港からの出港に支障がでる。炸薬量が少なくとも、重要なところをピンポイントで狙えることが脅威に他ならない。

 また、軍事技術に詳しいブレット・ティングリー氏は「小さなドローンは艦船を沈めることはできないが、重要な箇所を攻撃することで無力化(mission kill)することができる。それが複数やってくればなおさら脅威となる」「物理的な破壊だけが小型ドローンのもたらす脅威ではない。小型ドローンをおとりとして使ったり、防空システムや通信を妨害したりできる。小型ドローンで集めた情報を元に、他の兵器で攻撃することができる」とも過去に指摘している。

 実際、ウクライナをはじめとする最近の紛争では、炸薬量の少ないドローンであっても、高価な兵器の弱点を破壊して無力化したり、装甲のない電子戦システムや輸送車両を破壊している。何よりも小は手榴弾から大は155mm榴弾砲やハイマースを精密打撃するための“目”になっていることを忘れてはならない。

フェイク説の論証は不正確もしくは根拠が弱い

 だが、この動画は話題となると同時に諸説紛々となっている。本物説とフェイク説(CGや生成AIによるディープフェイク、合成、海自からの流出)が入り乱れ、フジテレビなどはフェイク説をいち早く紹介した。

 本稿としてはフェイクの可能性を否定はしないものの、現時点の情報からは数多くの根拠から本物説の蓋然性を推したい。

 第1に、フェイク説の最有力の論拠となっており、フジテレビもこれを根拠とした、艦尾の艦番号の不自然さである。フジテレビ(FNNプライムオンライン)の報道によれば「いずもの艦番号は183なんですが、船の甲板にはその下2桁の83が必ず記されている。(映像の船には)8はあるが、3は書かれていない」となっているが、これは第1次改装前のいずもであって、改装後に文字は薄れている。

 しかも今年2~3月のいずもを撮影したとされるSNSに流布している画像を確認すると、83の文字は薄くなっているが、8の方が若干濃くなっている。マスメディアが空撮したものでは、管見の限りではもっとも最新となる昨年12月1日時点の朝日新聞社が撮影したいずもも8が若干濃くなっている。

 この点で投稿された動画は最近のいずもの状態とほぼ一致しており、違和感はない。もちろん、ここまでの状況をAIで再現した可能性もあるが、果たしてそこまでの手間とコストをかける意味があるのか不明だ。実際に撮影する方が簡単だろう。

通常AIで生成すると、不自然な点が見受けられることが多いが…

 第2に挙げられるのが、映像の特性だ。ドローンとAIを活用した課題解決の実績もあり雑誌Wedgeなどにも寄稿しているハッカー量産型カスタム氏に検証を依頼したところ、

「仮に実際のドローンを使ったと仮定すると、この動画は操縦時にコントローラ側のスマホなどに映る映像ではない。その証拠に高度やバッテリー残量などの表示が見受けられない。また表示部分を切り取った場合には、本来機体に装着されたmicro-SDに保存される映像より画質が下がることから画質の劣化は避けられない。このような点から機体を回収して映像を取り出し編集された映像だと断定出来る。

 この拡散された画像を動画編集ソフトで1600倍に拡大してみたところ、AIで生成する時の癖が見当たらない。通常AIで生成すると崩れや歪みなど不自然な点が見受けられることが多いが、どれだけ拡大してもそれらしい箇所が見当たらない」

 と指摘した。

防衛省自衛隊のAIに対する解像度はまだまだ発展途上

 また彼は「いずもの艦橋のガラスが反射したり、ガラスの向こうが透けている。またいずもの鉄板の微妙な歪みや、太陽光を反射している点など現行のAIでは(再現が)難しいのではないか。特に後方の高速道路上を多くの車が動いていることは注目すべきだ。仮に生成AIを使う場合には学習データがないと難しい。少なくとも、フェイクという主張をするのであればどのようなシステム構成で生成するのかという工程を示した上で同様の映像を再現してからにすべき」とも言及している。

 さらに彼は「防衛省自衛隊のAIに対する解像度はまだまだ発展途上で、正確にフェイクと判別するための分析ができるかも疑問だ」とも語ったが、これは筆者も強く同感するところである。

この動画が何らかの編集をしていることは、否定できない事実

 第3に、フェイク説の根拠として「風による甲板の旗のたなびき方向と波が揺れ動く方向の不一致がおかしい」「人っ子一人いないのは疑問」という指摘もあるが、複数の関係者に確認したところ「横須賀港内は山がちなので冬の北風があらぬ方向に吹くことはよくあるので、波と風の向きが違うことはままある」「弱風の場合は風が巻く」とのことだった。

 後者については「基地の中は屋内作業が多く、時間帯によっては外にいない」との指摘を受けた。確かに、SNS上に散らばる横須賀港の写真を確認すると、真横からの写真ではあるが人が皆無となっている。問題の動画を投稿した人物も人気のない、停泊するいずもの写真を投稿している。

 第4に「風が吹いているのにカメラがぶれていない」という指摘もあるが、これは中国製に限らず現在市販されている殆どの小型ドローンの場合、機体の防振機能に加えアプリの機能として手振れ補正機能がついていることからも特に不思議ではない。

 ただし、この動画が何らかの編集をしていることは否定できない事実である。しかしながら、これから述べる根拠を踏まえれば、実際に撮影した可能性が高いのではないか。

実写説の根拠とは

 まず実写の第1の根拠は、こうした事例が世界各地で頻発しているという事実だ。2017年に英空母クイーンエリザベスへ民間人の小型ドローンが不時着した上、誰もその事実に気が付かなかった。2020年には米大統領専用機エアフォースワンに小型ドローンが接近した事例も確認されている。昨年12月6日には米本土のラングレー空軍基地が謎のドローンの侵入を確認し、その月に複数回侵入されたとしている。

 また横須賀基地を含めて、各地の自衛隊駐屯地や基地に小型民生ドローンが侵入したり、落下した事案が複数発生していることも筆者は複数の自衛隊幹部から確認しており、今まで頻発していた事案の動画が出たとみるべきだろう。実際にSNS上には3年前に不審なドローンが横須賀港付近で飛行していたことを示唆する書き込みもあった。

 第2に、手の込んだフェイクを作るよりも実際に撮影を実行する方が楽だという点だ。小型無人機等飛行禁止法が施行されたものの、それは法的に禁止しているだけでしかない。外国人旅行者が国内で海外仕様のままのドローンを飛ばしてしまう事例はこれまでも起きてきた。

 また日本でも多く流通している中国DJI社製のMavic3であれば、この程度の撮影は楽々とできてしまう(ただしGPS情報の偽装などを行っていることが前提となる)。航海用レーダー程度であれば周波数も違うので混信も起こらない。

 実際、過去に観音崎付近で航行中のいずもを、民間人が規制を順守して合法的に撮影した動画も公開されている。合法か違法か、斜め横か直上かという違いはあるものの、能力的には可能なのだ。

 このように総合的に考えてみると、実際の映像として考えた方が辻褄は一致する。もちろんこれは現時点での情報に過ぎないが、少なくともフェイクと主張するならば追試による再現映像を出すべきだろう。

真偽を超えたウェイクアップコール

 ウクライナ戦争や昨年10月のハマスによるイスラエル攻撃の教訓は、ドローンはいついかなる状況でも侵入可能であり、少量の炸薬であっても高価な兵器を機能停止に追い込んだり、爆発物に対する導火線としては十分だということだ。

 イスラエル軍の反応が遅れた理由は、ハマスの操る小型民生ドローンが小型爆弾をイスラエルの監視カメラ、遠隔操作機関銃、通信中継局などに投下し、目つぶしを仕掛けたことによる。これがイスラエル軍の迅速な反応を封じ、ハマスの跳梁と惨劇を招くことになった。

 韓国では昨年末にこのハマスの戦術を北朝鮮が応用してくることを警戒し、昨年12月に実際にハマスの戦術を再現した国ぐるみの公開演習を行った。

 しかし、日本では残念ながら同様の演習は行われていない。少なくとも今回の事案を奇貨として、今からでも日本仕様ではなく、海外仕様に近いドローンを用いた攻撃や侵入による演習を行い、自衛隊側の知見や練度を上げていくべきだ。

 戦史を紐解けば当然の回答である制空ドローンの開発も急がれる。火縄銃に対して竹束だけで、航空機に対して地対空兵器だけで、戦車に対して対戦車兵器だけで対抗しようという選択肢があり得ないように、火縄銃には火縄銃、航空機には戦闘機、戦車には戦車を中核とするシステムで対抗するのが常道だ。

 日本では地上設置型のレーザーや電子戦兵器といった対ドローン兵器ばかり重視されているが、こうしたアセットは一発当たりは安価でも本体は高価な上に量産が難しい。実際、自衛隊における配備は進んでいない。何よりも地上設置型のために機動力に限界がある。数も少なく、動けないのであれば、飽和攻撃には無力だ。

 そうであるならば、制空ドローンを中核とし、地上設置型の対ドローン兵器や防空アプリで補完する防空システムによって飛車角のように機動させて迎撃させるのが最適解となる。実際、ウクライナではドローンをドローンに体当たりさせて撃墜する事象が頻発している他、各国では日本に先駆けて固定翼機による制空ドローンの開発が進んでいる。単に飛んでくるドローンに対応するという消極的かつ退嬰的な発想ではなく、積極的に低空域の航空優勢を広範に獲得するシステムの構築を目指すべきだ。

自衛隊有言実行の姿勢こそが抑止力を高める

 もう一つは電波の規制改革だ。対ドローン機材を扱うある日本企業の社長は「電波法の出力規制によって、市街地における対ドローン機材の有効射程距離は100メートル程度にまで低下する」と危機感を筆者に吐露したが、こうした規制も実際の検証によって干渉しない条件や限界を確かめた上で防衛や危機管理分野に限って緩和していくべきだ。

 少なくとも動画が真であれ、偽であれ、ドローンの脅威と可能性は現実のものだ。その脅威に対抗できる知見と能力を強化し、その可能性を生かせるための弛まぬ実験と規制改革は急務だ。こうした事件が起きる度に、ドローンの規制が強化されてきたが、それは日本人のドローンの利活用を低下させ、必然的にドローンに対する知見や経験を社会と自衛隊から奪うことになった。他方で確信犯である犯罪者工作員に対し規制は無力である。今回の動画の真偽に関わらず、ドローン規制をいたずらに強化するのではなく、適切な緩和を行うべきだ。

 特に今回の動画をフェイクと初手から決めつけたり、防備は万全だと言い張るのは避けるべきだ。それよりも貴重なウェイクアップコールであるとみなし、自衛隊の警戒をより強化し、能力を高めていくという有言実行の姿勢こそ抑止力を高めるのだ。

(部谷 直亮)

海上自衛隊横須賀地方総監部に停泊する護衛艦「いずも」©時事通信社

(出典 news.nicovideo.jp)

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