【国際】「もしトラ」ならプーチン大統領が大喜び…トランプが「ウクライナ戦争は1日で終わらせる」と豪語するワケ

【国際】「もしトラ」ならプーチン大統領が大喜び…トランプが「ウクライナ戦争は1日で終わらせる」と豪語するワケ

ロシアウクライナ戦争はいつ終わるのか。ジャーナリストの池上彰さんは「ウクライナはアメリカの軍事支援に頼っている。今年のアメリカ大統領選でトランプ氏が再選すれば、こうした支援を打ち切る可能性があり、プーチン大統領漁夫の利を得るだろう」という――。

※本稿は、池上彰新・世界から戦争がなくならない本当の理由』(祥伝社新書)の一部を再編集したものです。

■アメリカの戦略はウクライナを“負けさせない”

ロシアウクライナ戦争に対する、世界各国の関わり方を見てみましょう。

まずアメリカです。結論を先に言えば、アメリカの戦略は「代理戦争」です。ウクライナに米軍は派遣しないけれども、兵器は供与する。その兵器で戦ってくれということです。

しかし、それには条件があります。ロシア中心部まで攻撃できるような兵器――長距離射程ミサイルや長距離を飛べる戦闘機などは除くことです。そのような兵器をウクライナに渡せば、ウクライナモスクワを攻撃するかもしれない。するとロシアが報復で核兵器を使う可能性がある。そう考えたアメリカは、ロシアには核兵器を使わせない、ウクライナが自国を守れるギリギリのレベルでの兵器を供与したわけです。

つまり、アメリカは積極的にウクライナを勝たせようとしているわけではありません。ウクライナを“負けさせない”程度の支援しかしていないのです。ウクライナに兵器を送って代理戦争をさせ、ロシアの力を弱める。ロシアがこれ以上、周辺国を侵略できないように脅威を取り除く。これがアメリカの戦略です。

■はるか遠くの戦争で大儲けする軍需企業

アメリカの軍事支援によってロシア軍は大打撃を受けました。ウクライナロシア軍の攻撃で多くの民間人が犠牲になっていますが、アメリカにしてみれば、その犠牲はロシアを痛めつける代償なのです。

アメリカがウクライナに大量の兵器を供与するということは、アメリカ政府が軍需産業から買い上げることですから、いま、アメリカの軍需産業が有卦(うけ)に入(い)っています。大儲けしているのです。

実際、2022年の夏頃から、軍需企業の株価が上昇しています。世界最大の軍需企業ロッキード・マーチンは2022年12月、496ドルの史上最高値を記録しました。ウクライナ軍が使った携行型対戦車ミサイルジャベリン」は、同社とレイセオン・テクノロジーズが共同開発した兵器で、ロシア軍の戦車を1000両以上も破壊したとされています。レイセオンはロッキードに次ぐ世界第2位の軍需企業で、こちらも株価が上昇しました。戦場で多くの人たちが命を失う一方、大儲けする企業がある。悲しい現実です。

■トランプ「ウクライナの戦争は1日で終わらせる」

アメリカが、ウクライナが“負けない”程度の支援しかしないとすると、ウクライナ単独でロシアに勝つのは難しいでしょう。しかも、アメリカの野党・共和党では、「もうウクライナへの支援をやめるべきだ」という論調が支配的になりつつあります。

ただ、これがイスラエルイスラム組織ハマスの戦いとなると、アメリカ議会の意見は別になります。共和党も与党の民主党イスラエル寄りで、「イスラエルには、もっと軍事支援をしよう」と声を揃えています。そうなればアメリカは、ウクライナに支援をする余裕がなくなります。

それでも、ジョー・バイデン大統領は何とかウクライナへの支援を続けようとしていますが、2024年年11月のアメリカ大統領選挙で、もしドナルド・トランプ共和党の候補として当選すれば、情勢は変わるでしょう。

トランプは「俺が大統領になったら、ウクライナの戦争は1日で終わらせてみせる」と豪語しています。この発言の意味するところは、ウクライナへの支援をいっさい止めるということです。そしてトランプ“新大統領”は、ウクライナに「ロシアに降伏しろ」と勧告するでしょう。アメリカの支援を失えばウクライナは戦えません。だから「1日で終わる」と言うのです。

■戦争が続くかどうかはアメリカ次第

すでにアメリカでは、大統領候補者を指名するための党員集会と予備選挙が始まっていますが、誰が次期大統領になるにしても、アメリカの国内情勢がロシアウクライナ戦争の行方を左右することに違いはありません。

ウクライナウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、メディアとの会見で停戦交渉の可能性について聞かれたとき、「その(停戦交渉の)つもりはない。ロシアウクライナから部隊を撤退させないかぎり、停戦には応じない」と、怒気(どき)をはらんだ声で否定しました。

こうしたゼレンスキーの姿勢は、アメリカからすれば傲岸(ごうがん)不遜に見えます。「だったらウクライナだけで戦えばいい。アメリカは関知しない」となりかねません。さらに言えば、「ウクライナはヨーロッパなのだから、ヨーロッパのNATO軍が助ければいい。なぜアメリカがわざわざ手を貸す必要があるのか」という考え方が生まれます。つまり、この戦争の行方はアメリカ次第なのです。

■イスラエルに対するアメリカ国民の“温度差”

アメリカの大統領選挙について、もう少しお話しします。イスラエルハマスの戦闘が始まる2023年10月7日以前は、バイデンが支持率でトランプを少し上回っていました。

ところが戦闘が始まると、風向きが変わりました。イスラエル軍の空爆によって、ガザ地区で大勢の民間人が犠牲になり、子どもたちが死んでいる。そんなニュース映像がアメリカ国内で流れました。

それを見たZ世代1990年代後半~2000年代前半生まれ)をはじめとする若者たちは、「なんてかわいそうなことをしているのだ」と、イスラエルを非難するようになりました。彼らは年配者たちと違い、イスラエルというユダヤ人国家の成り立ちを深く知りません。迫害されたユダヤ人の歴史やナチスによるホロコーストを知らない。あるいは関心が薄い。ユダヤ人に同情的な年配者とは温度差があるのです。

前回(2020年)の大統領選では、若者たちの多くは民主党バイデンに投票しました。おかげでバイデンが当選したわけですが、今回は若者たちの民主党離れ、すなわちバイデン離れが甚だしいのです。バイデンイスラエル寄りだからです。

■ウクライナを見捨て、イスラエル支援を強める

アメリカでは民主党にかぎらず共和党イスラエル寄りですから、バイデンから離れた若者たちはトランプにも投票しないでしょう。ということは、このままであれば投票率は大きく下がり、民主党の得票数が激減することが予想されます。しかしトランプには熱烈なファンがいますから、共和党は票を減らさない。つまり民主党が得票を減らすことでトランプが勝つ、という見通しになりつつあるのです。

もっとも、コロラド州の最高裁判所トランプの予備選出馬を認めない判決を下したり(2023年12月19日)、81歳というバイデンの高齢や健康状態を不安視する世論があったりしますから、展開は不透明です。

それでも、民主党に愛想をつかした若者たちが投票に行かなければ、大統領選挙でも議員選挙でも共和党が多数の票を獲得します。するとアメリカは、イスラエルには全面的な支援をするけれども、先にお話ししたようにウクライナは助けないという構造になるでしょう。

プーチンにしてみれば、思わぬ形で発生した“漁夫の利”ということになります。

■中国は「台湾有事」のシミュレーション中

では、中国はどうでしょうか。結論から先に言えば、様子を見ています。

中国は2005年に「反分裂国家法」を制定し、台湾が独立を宣言した場合には「非平和的手段」を講じても阻止する、としました。これが「台湾有事」、すなわち中国が台湾に対して武力を行使する可能性です。

もし中国が台湾を攻撃したら、世界はどのように対応するのか。このシミュレーションをするために、中国はロシアウクライナ戦争をモデルケースのように観察しています。

各国は、日本も含めてロシアに経済制裁を科しました。ところが制裁の効果は、それほど出ていません。ロシアには石油や天然ガスなどのエネルギー資源が豊富にありますし、小麦などの穀物も大量に収穫できる。自給自足できるのです。むしろ経済制裁を受けたことで、自給自足できることをロシア自身が確認したと言ってもいいでしょう。

たとえばスターバックスは2022年5月23日ロシアウクライナ侵攻を理由に、ロシア国内の130の店舗を閉鎖して撤退すると発表しました。しかし従業員は残り、店舗も「スターズ・コーヒー」という名でリニューアルオープンしました。

マクドナルドも同じ頃、「ロシアから恒久的に撤退する」として850の店舗を閉鎖・売却しましたが、ロシアの実業家が買い取り、「フクースナ・イ・トーチカ(おいしい、ただそれだけ)」と名称変更して再開しています。このように、世界からの経済制裁があっても、ロシア国内の生活は実質的な影響をあまり受けていないのです。

■ロシアと中国の立場が完全に逆転した

いま中国は、この様子を見ています。もし中国が台湾に侵攻したらどうなるか。――当然、経済制裁などで打撃は受けるだろう。しかし、すべての国が経済制裁に同調するわけではないし、グローバル・サウス(インドインドネシアトルコ南アフリカほか、南半球に多いアジア・アフリカなどの新興国開発途上国)は静観するだろう。さらに一帯一路で中国との貿易によって成り立っている国々も経済制裁に参加しないだろう――。こうした分析・予測を冷静にしているのだと思います。

ロシアは現在、親中国、さらに言うなら“中国頼り”になっています。2023年10月18日には、わざわざプーチンが北京にやってきて、習近平国家主席と会談しました。ロシア産の石油や天然ガスを、もっと中国に買ってもらうことが最大の狙いです。このときは一帯一路構想の提唱から10周年を祝う国際会議が開かれていたのですが、プーチンは主賓扱いでした。

かつて中国を緩衝地帯に置こうとしたロシアはいま、中国への依存度を高めつつあります。両者の立場は完全に逆転したのです。

■戦争が長期化したほうが中国にとって好都合

中国にしてみれば、ロシアが中国に頼らざるを得ないような、いまの状況は好都合です。ロシアウクライナとの戦争に負ければ、“中国頼り”にいま以上の負荷がかかるかもしれないので困りますが、勝つと増長するのでこれも困ります。戦争が長期化して膠着(こうちゃく)状態が続くほうが、台湾有事のシミュレーションとして分析できます。だから静観を決め込んでいるのです。

またイスラエルハマスの戦いにおいても、中国は様子見をしながら将来的な展望を計算しています。中国は、どちらかと言えばパレスチナ(ここではガザとヨルダン川西岸のパレスチナ自治区を指します)寄りです。

グローバル・サウスの国々も、同じようにパレスチナに同情的です。ハマスの武力行使は許せないけれども、そのためにイスラエルの報復攻撃を受け、パレスチナの民間人が犠牲になっている。「なんてかわいそうなことをしているのだ」と、イスラエルを非難するアメリカの若者たちに通じる心理があります。

中国はパレスチナ側に寄り添うことによって、グローバル・サウスを味方につけることができます。これは将来、台湾との関係においても中国のメリットになるでしょう。

■中国が静観しているのには狙いがある

戦争は当事国以外にも利益・不利益をもたらします。たとえば日本は、朝鮮戦争のときに、国連軍(実態はアメリカ軍主体)が必要とする物資を製造・供給することで経済的に大きな利益を得ました。いわゆる「朝鮮特需」です。

今回のロシアウクライナ戦争では、インド北朝鮮が戦争特需を得ています。インドロシアの足元を見るように大量の石油を買い叩きましたし、北朝鮮は砲弾をロシアに売って儲けています。

中国は経済的な利益のみならず、世界的なプレゼンス(存在感)を高める意味でも、長期的な展望の下(もと)に戦争の行方を見守っているのです。

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池上 彰(いけがみ・あきら)
ジャーナリスト
1950年長野県生まれ。慶應義塾大学卒業後、NHK入局。報道記者として事件、災害、教育問題を担当し、94年から「週刊こどもニュース」で活躍。2005年からフリーになり、テレビ出演や書籍執筆など幅広く活躍。現在、名城大学教授・東京工業大学特命教授など。6大学で教える。『池上彰のやさしい経済学』『池上彰の18歳からの教養講座』『これが日本の正体! 池上彰への42の質問』『新聞は考える武器になる  池上流新聞の読み方』『池上彰のこれからの小学生に必要な教養』など著書多数。

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2019年6月28日、大阪で開催された20カ国・地域(G20)首脳会議での二国間会談中に握手するロシアのウラジーミル・プーチン大統領とドナルド・トランプ米国大統領(当時) – 写真=SPUTNIK/時事通信フォト

(出典 news.nicovideo.jp)

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