指定校推薦枠がもたらす大学受験の不公平性とは?
指定校推薦枠がもたらす大学受験の不公平性とは?
学力が高くない子でも早稲田に入れるカラクリ
――中学受験せず、公立中学から高校受験をするメリットは何だと思いますか?
財部真一(以下、財部) 普通科の公立高校は、昔から沢山の指定校推薦の枠を持っています。また校内で指定校推薦に選ばれる競争率は、中高一貫校よりもずっと低いんです。
指定校推薦を出願するためには平均4以上の評定と、高校内で同じ志望大学の人より上にいる必要がありますが、中高一貫校では中間層が厚いため、努力しても評定や順位がなかなか上がりません。また、ライバルも多いため指定校推薦をもらうには競争率がすごく高いことが一般的です。しかし公立高校では、今その競争率が昔に比べすごく落ちているところが多いんです。
指定校推薦にどんな子を選ぶかは、実際には高校の先生次第なので、一般入試での合格は「まずないだろうと思う子」でも出願でき合格します。偏差値が低いような高校でも、その中で上位の成績を取ればいいので、学力が高くない子でもMARCHどころか早稲田大学に入れることもあります。
――偏差値が低い公立高校にも、有名大学の指定校推薦枠があるのですか?
財部 昔からある公立の進学高校は、中学受験や少子化の影響で偏差値が下がっても、よほどのことがない限り指定校推薦枠はなくならないんです。少子化の影響で、どの大学も入学者数を確保するのに必死です。しかし偏差値を維持するために一般入試の難易度は下げられないので、推薦枠を増やして学生を集めています。だから指定校推薦の枠は減らしません。総合型選抜や公募型推薦制度など、一般入試以外の制度を拡充させています。
各地域にある実業高校の推薦枠も広がっており、ある工業高校では、250人程度の生徒に対して、40名を超えて国立大学への合格者を出しています。国立大学合格を目指す普通科の高校より偏差値はずっと低い学校が、推薦制度で国立大学の合格者数を伸ばすような時代なんです。
地方の公立高校では、偏差値60以上の有名私立大学の指定校推薦枠が余っていることもあります。「枠が残ってるから出願しないか」と先生から声をかけられたケースもありました。それくらい私立大学の経営は苦しくなっているし、少子化の影響は大きいんです。
――大学に入りやすくなっている時代なのに、首都圏ではなぜ中学受験が過熱しているのでしょうか。
財部 理由の1つは、公立中学の内申点に対する批判です。特に東京では他県以上に叩かれていると感じます。
(中略)
また、首都圏は中高一貫校の選択肢が多く、メディアの力が強いので「公立中学は酷いから教育熱心な親は中学受験させるべきだ」という声が大きくなっているように思います。親にとっては、安心を買う保険のようなものでしょう。
確かに合格のボーダーライン上の子にとっては、内申点の1つの違いは死活問題かもしれません。しかしレベルが1つ下の高校へ行くことになっても、公立高校はカリキュラムも教科書も基本的に同じなので大きく変わることはないと思います。
――あまり内申点を恐れなくても大丈夫ですか?
財部 「高校が多少変わっても、人生そんなに変わらないよ」と言ってあげたいです。むしろ少し余裕を持った偏差値の高校へ入って、指定校推薦を狙った方が大学受験の戦略として手堅いかもしれません。
中高一貫校から一般入試でMARCHに落ちる子がいる一方で、偏差値が低い公立高校に山ほど推薦枠があったりと、実際の受験は不公平だらけです。それを考えれば、内申点なんて些細な問題ではないでしょうか。
(中略)
――「公立中学が荒れているから避けたい」という声がありますが、実態はどうなのですか?
財部 あくまでも私の地元の例ですが、今は大人しい子が多くなり、大人に暴力を振るうような怖い子は見なくなっています。注意欠陥・多動性障害(ADHD)などが原因で授業中に立ち歩く子がいると聞くことはあります。しかし、そういう子も学年が上がると落ち着いていくので中2や中3になったら授業はきちんと成立しています
(中略)
全国的に優秀な子が中高一貫校に進学することが増えているため、公立中学では普通に勉強を頑張っていれば上位の成績を取りやすくなっています。「やればできる」という達成感を得ることは、自己肯定感を育むためにも大きなメリットだと思います
(中略)
「公立中学に行っていたら、もっと生き生きしていただろうな」と感じる子は沢山います。(中略)ぜひ、お子さんの実力(地頭の良さ)、性格、友達関係などをよく分析して、適切な勉強環境を用意してあげてほしいと思います。