【国際】「ナルシズムに陥る」心理学者が見た金正恩“お嬢様”の危ない状態
【国際】「ナルシズムに陥る」心理学者が見た金正恩“お嬢様”の危ない状態
このところ、北朝鮮メディアに頻繁に登場する金正恩総書記の娘。名前は「ジュエ」とされているが、公式に確認されたものではない。2013年2月19日生まれとされている情報も、あくまで韓国の情報機関の推測に過ぎない。
彼女を巡っては後継者説が取り沙汰されているが、男子の長子相続が当たり前とされている朝鮮で、次子と推測され女子である彼女が後継者になるのはありえないと見る向きもある。
しかし、韓国の国家情報院は「金正恩氏がまだ若く様々な変数があり、すべての可能性を排除しない」との前提を置きつつも、現時点では後継者として彼女が有力であると見ている。
わずか11歳で、父とともに全人民の目線にさらされることとなったジュエさん。その心理状態はいかなるものなのか。
独裁者の心理について研究している米ジョージタウン大学心理学部のファターリ・モガダム教授は、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)とのインタビューで、ジュエさんが大衆の注目を浴びることで、ナルシズム(自己愛性)に陥る可能性を指摘している。
一般的に心理学では、ほとんどの独裁者がナルシシズムに陥っていると分析されているという。独裁者はナルシズムが著しく強く、自己評価が高く、自己中心的な考えや行いが突出して多い。ナルシシズムに陥ったリーダーは自分を過大評価し、批判に敏感で、権力を強化しようとする非民主的な行動を促進しうる。モダガム氏は、ジュエさんが経験することは、英国王室の後継者が経験することと似ていると説明した。
「イギリスでは、幼い王子や王女は非常に早い年齢から世間の目にさらされます。ジュエは、北朝鮮の王女であることを経験しています。イギリスの王女と同じように、彼女は自分が特別な存在だと思うでしょう」
ただ、英国と北朝鮮では大きく異なる点がある。英国では、メディアや一般国民が王室批判を自由に行えるが、北朝鮮では不可能だ。それにより、よりナルシズムに陥りやすくなるという。
「心配なのは、誰も彼女の決定に疑問を持たず、彼女の考えや行動の一部が間違っている可能性があることを学べない状況で育つことです。イギリスでは王室を批判することができますが、北朝鮮では王室を批判することはできません。」
モガダム氏は、金正恩氏が権力基盤を固めていく過程にあった2016年2月と2017年2月に、米政府系のボイス・オブ・アメリカ(VOA)の取材に応じている。やはりキーワードはナルシズムだった。
「金氏の年齢があまりにも若く、権力は引き続き不安であり、経済基盤が強力でないため、極端な独裁統治を維持する可能性が非常に高いと予測した」
モガダム氏は、金正恩氏が極端なナルシズムに陥っており、権謀術数に非常に優れた独裁者たちの共通点をすべて備えていると分析した。政策と行動が非合理的であったり、精神的に「病的な状態」ではないが、権力に極端に飢えた、ナルシズムに陥った人物であることはほぼ間違いないという評価だ。
また、極悪な独裁権力は、政権維持に対する不安のため、微細な反対の動きにも敏感に反応し、不服従行為に対して不寛容だと説明した。
また、核実験やミサイル発射を繰り返して脅威を与えることも、各地の独裁政権と似ており、周期的に緊張と紛争局面を誘発して自分の存在を確認し、国民に忠誠を誘導する手口を典型的に駆使してきたということだ。
翌年のインタビューでモガダム氏は、金正恩氏のナルシズムが悪化しており、「いかなる権謀術数であっても、政治目的のためなら許される」マキャベリズムに陥っていると指摘した。
相手を敵か味方かの二分法で区別し、ナルシズムとマキャベリズムが合わさった形となれば、敵の除去には全く躊躇しない。その点で、異母兄の金正男(キム・ジョンナム)氏暗殺も全く驚くべきことではないと評価した。
韓国を急に敵国扱いしだした点も、そう考えると理解できる。
祖父金日成氏、父金正日氏が持ち得なかった核兵器とそれが生み出す絶対権力を手にした金正恩氏は、情勢を全く違う側面、つまり戦争に持っていく可能性を高めるとも指摘している。