【社会】放置すると全身に不調があらわれる…眼科医が警鐘、7割の現代人があてはまる「隠れドライアイ」の怖さ

【社会】放置すると全身に不調があらわれる…眼科医が警鐘、7割の現代人があてはまる「隠れドライアイ」の怖さ

気をつけないといけないですね。

デスクワークやスマホ時間が長い人の体調不良の原因は意外なところにあった。1万2000人以上の目の記録を取り続けてきた眼科医の綾木雅彦さんは「体の不調はドライアイを疑ったほうがいい。角膜が乾いている『デコボコ目』は万病のモトになる」という――。

■老眼は0歳から始まっている

昔から目はよかったのに、突然、近くが見えづらくなった……。40代半ばを過ぎて、そう訴えてくる患者さんは少なくありません。

ご本人もうすうす気づいていることが多いのですが、主な理由は「老眼」です。老眼は、目のピント調整能力が低下することで起きる現象で、実は0歳から始まっています。

ただ、当人が近視であるかどうかで自覚する時期や程度が異なります。近視の人の目は「近くが見えやすい目」であるため、“近くが見えにくい老眼”になりにくい傾向があるのです。

一方、近視がない人の目は、遠くにピントを合わせることは得意でも、近くにピントを合わせる仕様にはなっていません。そのため、40代半ばくらいから急に「近くが見づらい」と感じるように。

つまり、目がよかった人ほど、突然、老眼に悩まされる傾向があるのです。

日本人の場合、だいたい40歳から「老眼が始まったかな」と自覚しますが、目のピント調整は筋肉運動なので、その日の調子でも多少変動します。平均47歳で老眼鏡を使い始め、「オォ、まだまだ見えるじゃないか」「いや、やっぱり厳しいな」などとしばらくの間一喜一憂するわけですが、70歳くらいで眼鏡の度数の変動はおさまります。

■近視を放置すると失明リスクがアップ

ちなみに、近視の人には「老眼になりづらい」という利点がありますが、近視が進行すると、緑内障や白内障、網膜剥離(はくり)などといった失明リスクの高い目の病にかかる確率が5倍以上になるので、注意が必要です。

近いところを見続けると、目は「近くを見やすい目になったほうが楽だ」と自然に判断。すると、眼球の形態が前後に長くなります。これが、眼の前後の長さである「眼軸」が長くなった目です。

眼軸が伸びる時期は、子どもの身長が伸びる成長期と重なります。その時期に、近くを見ることが習慣化すると眼軸が伸び、近視を招きやすくなります。

一度伸びた眼軸は簡単には戻らず、大人になる前にほとんど固定します。ですから、子ども時代は、外遊びなどをして遠くを見るなどして、眼軸の伸びを抑えることがとても大事なのです。

■「長く・よく視る力」はヴァージョンアップできる

ただし、大人になってからでも近いところを見すぎたりすると、近視が進行することがあります。

「ものを見る」行為について説明しましょう。ものを見ようとするとき、眼球にあるレンズ(水晶体)の厚さは自動的に調節されます。そしてピントが網膜に合ったとき、私たちは「よく見える」と感じます。

しかし、近くばかり見ていると、遠くを見たときに網膜ではなく、その手前でピントが合う目になってしまいます。その結果、遠くにピントが合いにくい目、つまり遠くが見づらい目になるのです。

また、本来水晶体は透明なのですが、加齢にともなって濁ったり、屈折率が変わったりすることも、近視の進行と関係します。

このように視力は、生活習慣や加齢によって遠くが見えなくなったり、近くが見えづらくなったりするものですが、年齢を重ねても「長く・よく視る力」を更新していくことは可能です。

中高年以上になっても、目の条件を整えれば「長く・よく視る力」は確実にヴァージョンアップできるのです。

■「デコボコ目」は万病のモト

しかし、どんなによく見える目でも、目の表面(角膜)がデコボコになっていると、遠くも近くも、きちんときれいには見えません。

角膜は、黒目を覆う透明な組織。視覚の情報となる光を目に取り入れる最初の部位で、とても大事な「目の入り口」です。

角膜の表面は、常に涙で覆われている。なぜなら、ほこりやごみ、乾燥などから守る必要があるからです。そして私たちは、この涙のベールを通してものを見ているのですが、目の表面がじゅうぶん潤っていることで光がうまい具合に屈折し、ものがよく見えるのです。

しかし、涙の量が減ると、角膜上にあるゴミをうまく取り除けなかったり、角膜表面からなめらかさが失われてデコボコな状態に。すると、光をうまく取り込めず、ものが鮮明に見えなくなってしまいます。

私は2015年から毎年、計1万2000人以上の患者さんの目の乾き具合を記録しています。デコボコな目については、2015年は全体の約5割、2022年は約7割の人の目がその症状になっていることがわかりました。

■体の不調はドライアイを疑え

デコボコな目による不調の典型的な例が、ドライアイです。

ドライアイは、単に目が乾くだけでなく、実はさまざまな目の問題を引き起こす“トラブルの温床”。放置すると危険な眼病です。

眼痛や頭痛など目に近い部位の症状のほかに、肩こりや腰痛、全身の痛覚を司る神経や末梢神経の障害、さらには睡眠障害やうつまで併発することがあるのです。

「ドライアイなんて、自分には関係ない」と思う人も多いかもしれませんが、目の乾きや痛み、見えにくさなどを自覚していなくても、じつはデコボコ目になっている可能性があります。「隠れドライアイ」といった状態です。

ですから体の不調を感じたら、まずは目の健康を保ち、「長く・よく視える力」を上げ、常に涙で目の表面を潤すことがとても重要。それは、たった1秒の「完全まばたき」で叶うことは前回詳述した通りです。

■老眼の進みを遅らせる涙液交換

涙について、あらためて説明しましょう。

涙は、目尻側にある涙腺でつくられたあと、目を潤し、目頭にある涙点から鼻の奥へ排出されます。目の表面を、涙は一方通行で流れているわけです。これを「涙液交換」といいます。

この涙液交換もまばたきの役割の一つで、しっかりまぶたを閉じきることで、涙液交換も進みます。

完全まばたきで涙液交換がスムーズに行われ、常に質のよい新鮮な涙が目の表面を覆っていると、さまざまな恩恵が得られます。

たとえば、老眼の進行を遅らせてくれるのもその一つです。

老眼の目は、ピントを合わせる調整力が弱くなっています。その状態に加えて、目に涙が行き渡らずデコボコ目の状態になっていると、見ようとするものの像がより見えづらくなります。すると余計な負荷がかかることになり、目が疲れやすくなるどころか老眼が進んでしまうのです。

実際、私が2020年に行なった研究で、「ドライアイの女性は老眼の進みが速い」という結果が出ました。2017年に行なわれた慶應義塾大学の研究でも、近くを見ようとしたとき「ドライアイはなかなかピントを合わせられず、ピント調整が不安定になる」と報告されています。

涙で目が潤い、角膜がなめらかさを取り戻せば、目が本来持っている「ピントを微調整する力」を最大限に発揮できるようになります。目の機能が損なわれず、常に健やかに保たれるため、老眼の進行速度も抑えられるのです。

■「完全まばたき」で眼圧を下げて緑内障を予防

まばたきの効能は、涙で目を潤し、デコボコ目を改善してくれるだけではありません。

まばたきは、眼球内の圧力「眼圧」とも関係しています。

まぶたの上から目を軽く触ると、風船のような弾力がありませんか。これは、眼球内の液体「房水(ぼうすい)」が一定の圧力を保って循環しているからで、この圧力が「眼圧」です。

眼圧が高いからといって、視力低下や失明に直接つながるわけではありません。しかし、高い眼圧を放置すると、視神経が圧迫されて損傷し、急激な目の痛みに突然見舞われたり、視野が少しずつ欠ける緑内障に至ることも。ですから、眼圧は高くないほうが望ましいのです。

眼圧の高さと関係するのが「自律神経」の働きです。昼間など活発に活動する時間や、緊張しているときなどに交感神経が優位になると、房水の産生量が増えて眼圧が上がります。

反対に、休息時やリラックスしているときは副交感神経が優位になり、防水の排出量が増えて眼圧が下がります。

したがって、副交感神経に働きかけることができれば、眼圧を下げる効果が期待でき、眼痛や緑内障を遠ざけることが可能なのです。

実は、まばたきは副交感神経に働きかける手段の一つ。

交感神経優位のときは、自然とまばたきが減ります。反対に、リラックスして完全まばたきを意識すれば、副交感神経を優位にすることができるのです。

■まばたきは脳の情報処理にも効く

まばたきの重要な役割が、もう一つあります。「脳の情報処理」です。

私たちはものを見るとき、網膜に像が映し出され、その情報が脳に送られて初めて「見えた」と感じます。

「見る」とは、目と脳の連携のたまもので、ずっと何かを見ている限り、目と同様に脳も働いているのです。

しかし、まばたきをすると、ごく短い瞬間ながら脳は情報の流れに区切りをつけ、その内容をより把握しやすいように整理しています。

句読点のない長文は読みにくく、意味を理解しにくいものですが、文を短くしたり、「、」や「。」で区切ったりすると読みやすくなりませんか。それと同じです。

ですから、まばたきをすると「見える力」が高まるのは、涙が分泌されて目の表面を整えてくれるだけでなく、脳の情報処理が正しく行なわれるからなのです。

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綾木 雅彦(あやき・まさひこ)
眼科専門医・慶應義塾大学医学部非常勤講師
1982年、慶應義塾大学医学部卒業。1994~1997年、ハーバード大学に留学(医学部研究フェロー)。昭和大学医学部眼科准教授、国立病院機構埼玉病院眼科医長、国際医療福祉大学三田病院眼科准教授などを歴任。慶應義塾大学眼科学教室の研究者として知見を深めながら後進の指導にあたるほか、日本抗加齢医学会評議員などの要職も数多く務める。「ブルーライト研究の第一人者」としても知られる。著書に『視力防衛生活』(サンマーク出版)など。

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※写真はイメージです – 写真=iStock.com/kuppa_rock

(出典 news.nicovideo.jp)

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