【科学】ついに可能になるのか?物理法則に反しないワープ航法理論を科学者が提唱
【科学】ついに可能になるのか?物理法則に反しないワープ航法理論を科学者が提唱
これまでさまざまな「ワープ」に関する理論が提唱されてきたが、いずれも物理法則を破るものだった。だが、このほど提唱されたワープ航法理論は、あくまで既存の物理学のルールを守りながら、それを実現する。
既存のワープ理論の難点は、既存の物理学では不可能とされる光速を超える速度や、あくまで仮説上の存在である不可解な負のエネルギーなどに基づくところだ。
だが新たなワープ理論は、そのような物理学の範囲から逸脱することなく、理論上はワープ航法を可能にする。
現時点で、人類文明にこの理論を実現する技術はないが、それでもいつか、銀河に本格的に進出するという人類の夢を後押ししてくれるかもしれないという。
【画像】 超光速航法理論、アルクビエレ・ドライブの2つの課題
現在の物理学では、光速を超えるスピードは不可能とされている。
そこで1994年、物理学者ミゲル・アルクビエレは、時空を操作することで見かけ上光速を超える方法を考案した。それが「アルクビエレ・ドライブ」と呼ばれるワープ理論だ。
その理論は、宇宙船の周囲を平らな”時空の泡”で包み、後方に小規模のビッグバン(空間の膨張)を起こしつつ、前方にビッグクランチ(空間を収縮)を起こすことで、”見かけ上”光速を上回る速度で移動できるという。
アルクビエレ・ドライブはさまざまな学者から注目されたが、今のところ2つ大きな課題があるとされている。
・合わせて読みたい→ワームホールによるワープは可能。でも思っているより時間がかかり近道にはならない(ハーバード大学物理学者)
それは、そのような時空の泡を作るために「負のエネルギー」と「エキゾチック物質」が必要になる点だ。
負のエネルギーとは、「負の質量」といった普通ではありえない特性を持つ、仮説上のエネルギーだ。
もしもあなたが目の前の物体を押した時、押せば押すほどこちら側に向かって加速してきたら、何が起きているのか理解できないことだろう。だが、負の質量を持つ物質は、そのように振る舞う。
負のエネルギーは、これまで確立されてきた物理原則にも反する。そのひとつが「弱いエネルギー条件」と呼ばれるものだ。これは誰が観測してもエネルギーは負にはならないというもので、一般相対性理論では負の質量をはっきりと禁じている。
アルクビエレ・ドライブの直観的イメージ / image credit:WIKI commons
物理法則を破らない新ワープ航法理論が登場
そこで米国アラバマ大学のクリストファー・ヘルメリッヒ氏らは、アルクビエレ・ドライブのように時空を操作しつつも、一般相対性理論に反することのない新ワープ理論を提唱している。
その理論は「ミンコフスキー背景(重力も曲率もない平坦な時空)」と、注意深く分配された「変位ベクトル(時空をあらわす数学的概念で、宇宙船の周囲の時空の変位レベルを記す)」をもつ「安定した物質シェル(宇宙船の周囲に特定の方法で配置された、規則的でエキゾチックではない物質の層)」を組み合わせたものだ。
・合わせて読みたい→小型ビッグバンとビッグクランチを駆使して光速を超える!? 実現可能なワープ航法が科学者たちの間で話題に
このフレームワークによって、時空の操作に必要なワープ・バブル(泡)が可能になる。
このバブルは、局所的な時空の曲率にとらわれないいわゆる「パッセンジャー領域」を囲み、そのおかげで局所的に加速することのない測地線運動を可能にする。
要するに、これによって時空をショートカットできるのだ。バブル内の時空の湾曲をうまく利用することで、宇宙船はある地点から別の地点へ、光が通常の平坦な時空を進むよりも速く移動することができる。
この新しいワープ航法モデルは、アルクビエレ・ドライブと違い、「正のADM質量(Arnowitt-Deser-Misner質量)」をもつ規則的な物質シェルを利用するため、エネルギー条件を破ることがない。少なくとも理論上は、すでに知られている物質と物理現象によってワープ航法の実現するのだ。
ワープドライブで宇宙に行ける未来は来るのか?
ただし理論上可能というのと、それを実現するのとでは大違いだ。
新たなワープ航法理論は、一般相対性理論と古典物理学のルールを守っているが、実際に行うには莫大なエネルギーを制御し、安定したワープバブルを生成するなど、現在の人類の技術レベルを遥かに超えた作業が必要になる。
それでもヘルメリッヒ氏は、「このような設計にはまだかなりのエネルギーが必要ですが、エキゾチック物質がなくてもワープ航法が可能であることを示しています。こうした発見は、いずれワープ航法に必要なエネルギーを減らす道を開いてくれるでしょう」と語る。
既存の物理学のルールを守りながら、光速を超えた移動を実現する理論、それはワープという夢の技術へ向けた大きな前進なのだ。
この研究は『Classical and Quantum Gravity』(2024年4月5日付)に掲載された。
References:Scientists propose warp drive model that doesn’t break laws of physics / written by hiroching / edited by / parumo