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一般社団法人フィリピン・アセットコンサルティングのエグゼクティブディレクターの家村均氏が、フィリピンの現況を解説するフィリピンレポート。今週は、世界的な地政学リスクの高まりの中で、フィリピン経済が進んでいる方向性と、海外投資家がフィリピンへの投資をどうみているのか、レポートします。
中国の脅威に対抗…「米・日・比」が経済面でも協力
アメリカは、中国が排他的経済水域(EEZ)に侵入していることについて、フィリピンを強く支持しており、フィリピンはアメリカとのより強固な経済・安全保障パートナーシップを求めています。
また、フィリピンはアメリカ製品にとって重要な市場であり、2021年においては、フィリピンはアメリカからの農産物輸出額で8番目に大きな市場であり、東南アジアでは1番の市場です。マルコス大統領は、アメリカとの自由貿易協定(FTA)を推し進め、鉱物資源に関するアメリカとのパートナーシップを強化する意向を示しています。
5月21日には、アメリカ貿易開発局(USTDA)が初めてマニラでIndo-Pacific Business Forumを主催します。このフォーラムには、500人以上の企業幹部と政府関係者が集まる見込みです。マルコス大統領は、このフォーラムは、新興経済国への投資と成長を促す触媒となるだろうと期待を寄せています。
またアメリカ、日本、フィリピンの3ヵ国は、ルソン島にEconomic Corridor(経済回廊)を構築する計画を発表しました。これは、インド太平洋地域で初めての試みで、高い影響力を持つプロジェクトへの協調投資を実施します。マニラ、バタンガス、スービック湾、クラークを結ぶこの回廊は、鉄道や港湾などの重要インフラプロジェクトに焦点を当て、半導体、クリーンエネルギー、サプライチェーンなどの戦略的投資が含まれます。
さらに米国と日本は、マニラでのイベントを通じて投資を促進し、オープンRAN技術のフィールドトライアルやアジアオープンRANアカデミーの設立も発表しました。フィリピンの半導体業界の強化や安全な原子力発電の拡大にも焦点を当てています。これらの取り組みにより、フィリピンは今後5〜10年で1,000億ドルの投資を獲得する見込みで、中国との関係悪化に備えて米国や日本との連携を強化しています。特に、マニラ、バタンガス、スービック湾、クラークを結ぶインフラの整備が計画されており、これによりルソン島全体の経済的な発展が促進されることが期待されます。
さらに、半導体産業やクリーンエネルギー分野への投資など、戦略的な分野への投資も行われる予定です。これらの取り組みにより、ルソン島はより持続可能で発展的な経済を実現するための重要な一歩を踏み出すことになると見られています。この計画はアメリカ、日本、フィリピンの関係を一層強化するものであり、これにより各国の経済的な結びつきが深まり、安定した発展が促進されるでしょう。さらに、地域全体の安全保障にも寄与することが期待されます。
海外投資家、慎重な姿勢ながらも「フィリピン経済」を高評価
フィリピン・バンクオブアメリカ(BofA)のトップVincent Valdepeñas氏は、フィリピンの経済に対する投資家センチメントは、地政学的な緊張やマクロ経済の逆風があると慎重姿勢ながらも「楽観」であると述べました。
同氏はインタビューで、東南アジアが魅力的な市場であることから、特にフィリピンに関心を持つ投資家が増えているとする一方、企業はインフレ圧力を高めるおそれのある紛争や自然災害など、依然として懸念材料があるため、楽観ながらも慎重な姿勢であると話しました。
フィリピンの若年層人口構造に着目している投資家は多く、フィリピンは魅力的な市場だと考えられています。経済の成長力も投資家センチメントを後押しする大きな要因です。
2023年のフィリピンのGDP成長率は前年を下回ったものの、依然としてアセアン地域内のトップレベルに位置しています。フィリピン政府は今年、6~7%のGDP成長率を目標としています。
マルコス政権は現在、BBM(Build Better More)政策による高速道路、空港、鉄道などの交通インフラへの投資を最重要課題としており、これも海外投資家から評価されています。インフラ整備は、マルコス政権の重点分野の一つであり、GDPの5~6%を毎年インフラ投資に充てる計画があります。政府のインフラ整備プログラムには、現在、総額 9.14 兆ペソに相当する185件のプロジェクトが盛り込まれています。
また、Vincent Valdepeñas氏は、フィリピンは製造業への投資を強化すべきであり、役所手続きの合理化やビジネス環境の改善により、さらなる投資家誘致も可能であるとしています。さらにフィリピンの資本市場のさらなる開放にも期待を寄せていて、株式市場は今後、活況を取り戻すとみています。
最近のメトロバンクの債券発行が成功裏に終わったことも、投資家からの強い需要を示す好材料だと指摘。フィリピン政府が資本市場の拡大と流動性の向上に取り組んでいることを評価しています。活発で流動性のある資本市場を求めている外国人投資家にとって、フィリピンの市場は流動性に乏しく、参入しづらい状況にあるのが現状です。シンガポールのような市場の流動性や政策を参考にすることで、フィリピン市場の魅力を高めることが重要であるとしています。
一方で、フィリピンの観光業は、中国人観光客の戻りが鈍いことで低調と指摘。フィリピンではまだ観光客数がコロナ前の水準に回復しておらず、特に中国人観光客の回復が遅れています。フィリピン観光局の最新のデータによると、2023年のフィリピンの入国観光客数は545万人でした。これは当初の目標であった480万人を上回るものでしたが、依然としてコロナ前の水準には達していません。観光客数のトップは韓国で、全体の 26.41%を占めています。