【宇宙】冥王星の表面にあるハートマークの謎を解明
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冥王星の表面には、ハートマークのような特徴的な模様がある。いったいなぜこのような領域ができたのだろう?新たな研究がその謎を明らかにした。
このハートマークは、大昔に巨大な天体と交わしたディープキス、すなわち衝突が原因であるようだ。
ベルン大学やアリゾナ大学などの研究チームが行ったシミュレーションによれば、「トンボー地域」と呼ばれるハートマークは、かつて直径700kmもある天体が、ゆっくりとかつ斜めに衝突したことで形成されたと考えられるという。
太陽系の外縁部を軌道する准惑星「冥王星」には、何やら明るいハートマークが浮かび上がっている。これが「トンボー地域」と呼ばれる非常に反射率が高い領域だ。
冥王星に何やら明るい領域があることなら、半世紀以上前から知られていた。
だがそれがハート型であることが判明したのは、2015年に行われたニュー・ホライズンズ探査機による観察のおかげだ。
ニュー・ホライズンズが撮影したトンボー地域の拡大図 / image credit:NASA/Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory/Southwest Research Institute
[もっと知りたい!→]冥王星の地表を可視化。ニュー・ホライズンズの画像を元に作成されたシミュレーション動画(NASA)
トンボー地域が白く見えるのは、そこが周囲よりも強く光を反射するからだ。
驚いたことに、ハートマークの西側にあたる大きな盆地「スプートニク平原」は、冥王星の大部分よりも標高が3~4kmほど低く、その表面を窒素の氷が覆っている。
こうした窒素は、何らかの天体が衝突した時、スプートニク平原の低さが原因で速やかに降り積もった可能性が高い。
一方、ハートマークの東側も、それと似たような、しかしずっと薄い窒素も氷で覆われている。その起源ははっきりしないが、これもまたスプートニク平原に関係している可能性が高い。
最新の研究によれば、かつて斜めからのゆっくりとした衝突が起こり、それが冥王星にハートマークを残したようだ/Credit: University of Bern, Illustration: Thibaut Roger
冥王星の地下に衝突した天体のコアが残っている可能性
スプートニク平原の引き延ばされたような形状からは、この衝突が真正面からではなく、斜めからの角度のあるものだったろうことが疑われた。
そこで今回の研究チームは、シミュレーションをによって、ハート型の痕跡が残るような衝突の条件を探ってみることにした。その結果、予想通り、斜角での衝突だったろうことが確認されたのだ。
・合わせて読みたい→そもそも定義自体が曖昧である。天文学者たちが「冥王星」を再び惑星に戻すことを要求
この衝突で重要だったのは、天体が斜めに、しかもゆっくりと冥王星に衝突したことだ。そのおかげで、涙のような形ではなく、ハート型の痕跡が残った。
冥王星のハートマーク、トンボー地域 / image credit: NASA/Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory/Southwest Research Institute
これについて、ベルン大学のハリー・バランタイン博士は次のように説明する。
冥王星のコアは非常に冷たいため、衝突の熱にもかかわらず、その岩石は溶けたりはしませんでした。
また衝突の角度とゆっくりとした速度のおかげで、衝突した天体のコアは冥王星のコアに沈むことなく、ピシャッと潰れてそのまま残りました
それはつまりスプートニク平原の下には、冥王星が消化しきれなかった別の天体のコアが残っているだろうということだ。
New Horizons Flyover of Pluto
冥王星に地下の海はない証拠になるかもしれない
今回の研究は、冥王星の内部の構造についても新たな知見をもたらしている。
ハートマークを残したような大きな衝突は、冥王星の歴史の最初期に起こった可能性が高い。だが、これが1つの難問を突きつけてくる。
もしも実際そのようなことがあれば、質量が減るせいで、スプートニク平原のような窪地はだんだんと極地へと移動すると考えられるのだ。ところが実際にハートマークがあるのは赤道付近だ。
このパラドックスについて、これまで有力だった仮説では、冥王星の地下に液体の海があるからであると説明されていた。
それによると、スプートニク平原では氷の地殻が薄くなっており、そのせいで地下の海が膨らむ。液体の水は氷よりも密度が高いので、これによって質量が増え赤道へと移動していく。
だが、今回の研究は、こうした地下の海がなくても、ハートマークは赤道へと移動すると述べている。
シミュレーションの結果によるなら、かつての衝突によって、冥王星の原始マントルが掘り起こされて、衝突した天体のコアが冥王星のコアに飛散した。
これがその部分だけ質量を増加させることになり、スプートニク平原を赤道へと移動させたのだ。
現在、この移動の速度を推定するプロジェクトが行われているとのこと。冥王星のハートマークが、この准惑星の歴史についても教えてくれるかもしれない。
この研究は『Nature Astronomy』(2024年4月15日付)に掲載された。
References:How Pluto got its ‘heart’ | University of Arizona News / Astrophysicists solve mystery of heart-shaped feature on the surface of Pluto / written by hiroching / edited by / parumo