【社会】身近な人からレイプされ、母親には刃物を突き付けられ…… 元新興宗教信者が取材でたどり着いた「エグすぎる宗教虐待」の実態とは
【社会】身近な人からレイプされ、母親には刃物を突き付けられ…… 元新興宗教信者が取材でたどり着いた「エグすぎる宗教虐待」の実態とは
「撮影中は主人公のすずと完全に同化してしまって、電車に飛びこもうとしたこともあったくらい辛かったです。精神的にハードなシーンが続くし、監督も兼ねているので現場もまとめないといけないし……。幸いにもホームにいた方が声をかけてくださって事なきを得たのですが、まさに宗教二世の日常を追体験しているような撮影期間でした」
真剣なまなざしで語るのは、映画「ゆるし」の監督・脚本・主演の3役をこなした平田うらら氏だ。平田氏は学生時代に新興宗教に入信した経験を持つ。自身は周囲の支えで脱会できたものの、教団で友人になった宗教二世のAさんを自死で失ってしまう。その経験がきっかけで、宗教二世問題に関心を持ち、取材を開始。取材した人数は300人にのぼった。
その取材をもとに制作されたのが本作「ゆるし」である。新興宗教にのめり込む母親を持つ高校生のすずを主人公に、宗教二世が受ける虐待を描いた本作は、あまりにもリアルな描写に宗教二世を中心に驚きの声が上がっている。
じわじわと話題を広げる本作のメガホンをとった平田氏に、死にたいほどつらい映画を撮り続けた理由、そして壮絶な宗教二世のリアルを聞いた。
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――とてもショッキングな映画でした。特に主人公・すずに対し、母親が信仰を強要する言動があまりにも怖くて、ホラー映画のようでした。
平田うらら監督(以下、平田) ありがとうございます。あの母親の言動はとてもリアルだと宗教二世の方々からも評判をいただいています。でも、登場人物に特定のモデルとなる人物はいないんですよ。取材で聞いた話をまとめて作り上げた架空の人物です。
――膨大な取材をもとにしているとはいえ、フィクションとして作っているのですね。ただ、作中で描かれるエピソードはほぼ実話と聞きました。
平田 そうなんです。作中で、クラスメイトが「カルトコール」をする場面がありますが、あれ以外は基本すべて実話がベースになっています。母親から刃物を突き付けられることも、身近な人にレイプされることもすべて、取材で聞いた実話です。宗教二世の方々の現実をつなぎ合わせて出来たのがこの映画の脚本なんです。
――どうりで生々しいシーンが多いんですね。ところで、映画では母娘の関係をメインに描きつつ、周囲の無理解を描いているのも印象的でした。
平田 これは二極化したくない問題ですが、新興宗教で悩んでいる人にとって周囲の支えがあるかどうかは大きな要素です。取材した実感として、周囲の支えがあると立ち直れる人が多く、逆の場合は鬱になったり自死を選んだりしてしまう人が多いんです。だからこそ、宗教二世は家族の問題だけではなく、社会の問題なのだと分かって欲しくて同級生のいじめも描きました。
宗教二世が親から離れない理由
――確かに、「変なことをしている奴らだ」という偏見の存在は否定できません。ただ、死ぬほどつらいなら「どうして親元を離れないんだろう」という疑問もわいてきます。映画でも主人公は周囲から助けの手を差し伸べられても母親のもとに戻ってしまいます。
平田 大きな理由は親への愛と同情です。子どもとはいえ、親の事情を察してしまうのだと思います。「お母さんも辛いんだな」「宗教が心の支えなんだな」って……。たとえ虐待されていたとしても、親が憎い訳ではないんです。だから、自分の心を殺してしまう方がまし、という思考になってしまうんです。
――まさに自分の心を殺した主人公が、母親を抱きしめるシーンは印象的でした。
平田 私自身は虐待されてませんが、取材で聞く限りでは、子どもはたまに見せる親の優しさに期待してしまうんですよね。あの優しい親が忘れられなくて、期待に沿うようなことをしてしまうんです。まるでDVの加害者と被害者の共依存関係のように。
――映画は救いのないバッドエンドで終わってしまいます。なぜ、このようなラストにしたのでしょうか。
平田 実は、あのラストの後には浜辺を歩くすずを映した希望を持たせたシーンが予定されていました。でも、取材した方々のお話を思い返すと、知り合いや家族に自死した方が多いんです。結局、やっぱりリアルに描かないとダメだと、全カットしました。ドローンまで使って、そこそこお金かかったんですけどね。
300人もの宗教二世の方々の、そして、死を選んでしまった二世の方々の声が、あのラストを作ったんだと思います。全く後悔はしていません。見た人の心に残る映画になったと思いますし、宗教二世問題とは縁がないと思っている方にも考えるきっかけになるんじゃないかと思います。