【社会】共犯者と交際し妊娠→逮捕→拘置所で出産…ミスコンに出場した“ルフィ強盗団のお嬢さま”(25)が、特殊詐欺グループから逃け出さなかったワケ
【社会】共犯者と交際し妊娠→逮捕→拘置所で出産…ミスコンに出場した“ルフィ強盗団のお嬢さま”(25)が、特殊詐欺グループから逃け出さなかったワケ
〈「美貌をカネに換えていた」ミスコン出場後、パパ活にハマった“ルフィ強盗団のお嬢さま”(25)が、特殊詐欺に加担した経緯〉から続く
被害総額60億円と言われている広域特殊詐欺事件、通称「ルフィ」事件。実行犯となった若者たちはなぜ、日本を震撼させた犯罪に手を染めてしまったのだろうか?
ここでは、実行犯たちの素顔に迫ったルポルタージュ『「ルフィ」の子どもたち』(扶桑社新書)より一部を抜粋。「かけ子」として特殊詐欺に加担し、SNS上で「ナミ」と呼ばれていた熊井ひとみ被告。彼女が特殊詐欺グループから逃げ出さなかった理由とは――。(全2回の2回目/1回目から続く)
※本文中の敬称等は略し、年齢、肩書などは原則的に事件当時のもの
◆◆◆
「親兄弟に危害を加える」という脅しに屈する
マニュアルと電話番号が載った名簿を渡された。最初に見た入れ墨の男と同様、電話をかけるよう指示された。しかし熊井はここで「ささやかな抵抗」をする。机に突っ伏すと、微動だにしなかったのだ。
すると、すかさず手元の電話が鳴る。渋々出ると、ルフィグループの幹部である渡邉からだった。
「あのね、日本の住所もわかってるんだよ……」
冷淡な口調に恐怖を搔き立てられた。それは言外に「親兄弟に危害を加える」という脅しだと理解した。熊井は屈した――。
「娘が何か犯罪組織に加担しているのでは」疑念を深める母親
軟禁状態と思われる環境下に暮らす一方で、この魔窟から逃げ出す手段と機会が熊井には“与えられていた”。フィリピンで「かけ子」として働かされていた多くの若者が、スマホをルフィグループに取り上げられていたのに対し、なぜかスマホの使用を許されていたのだ。それもあってか、日本にいる母親とは定期的に連絡が取れた。
当初は2~3週間と母親に言っていたフィリピン滞在が、また数日と延びるたびに連絡を取り、その旨を伝えていた。それを聞くたび、母親は疑念を深めていった。
国内でのオレオレ詐欺の報道をみるにつけ、母親は娘が何か犯罪組織に加担しているのでは、と思っていた。それを問いただすと娘は「警察には言わないで」と懇願した。
命の危険があるかもしれないと思い、母親は具体的なアクションをためらってしまう。
「かけ子」36人の身柄が拘束されるが…
しかし、事態が急転した。熊井がフィリピンに渡ってから1か月半、2019年11月14日、グループの拠点となっていた廃ホテルが現地警察に摘発され、そこにいた「かけ子」36人が身柄を拘束された。
ルフィの幹部4人と、熊井ら一部のかけ子は運よく拘束を免れた。しかし拠点が潰された以上、熊井ら残ったかけ子は、恐怖や脅しによる支配から一旦は逃れることになった。このタイミングで現地の警察に出頭するという選択肢もあったはずだが、熊井が選んだのは、かけ子を続けることだった。
その後、残ったルフィグループは拠点をいくつも変えた。そして熊井はあれだけ抵抗した詐欺の電話を進んでかけ続けた。
かけ子グループのリーダーと“男女の仲”に
熊井も山田李沙と同様、「成績優秀」だった。その労いで、幹部らにセブ島旅行に招かれたこともあった。そしてはたと気づいた時にはかけ子の仕事に没頭していた。
かけ子グループのリーダー、2歳年下の藤田海里(24歳)の存在が熊井をフィリピンにつなぎ留めた。藤田も「高額バイト」の誘いに乗った結果、だまされるかたちでフィリピンに渡っていた。慣れぬ土地での生活、似た境遇。2人が男女の仲になるまで、そう時間はかからなかった。
「当局に逮捕されて、離れ離れになるならば、今のままがいい」
のちに法廷で省みた藤田との恋は、どん底のなかに差すひと筋の光だった。結局、藤田の下での「かけ子生活」は1年半近くにも及んだ。
約2年、2人でフィリピン国内を逃避行
そして2021年3月、熊井のスマホが震えた。渡邉らルフィグループ幹部4人がフィリピン当局に拘束されたというニュースが飛び込んできたのだ。
「これで危害を加えられることもなくなった」
2人は安堵した。そしてかけ子生活から、足を洗う決心をしたのだった。
しかし、帰国するという選択肢はなかった。それから約2年、2人はフィリピン国内で逃避行を続ける。観光ビザでフィリピンに入国した2人がどのように生活していたのかは定かではない。裁判でもその期間に関しては証言を拒否している。
2023年、「ルフィ事件」が露見すると、国際問題に発展しかねないと危惧したフィリピン当局がようやく重い腰を上げた。特殊詐欺事件の捜査を本格化、ルフィグループの残党たちの関与を確認し、検挙に乗り出した。
このとき民泊施設のようなところで生活をしていた2人も拘束された。熊井は藤田の子を宿していた。
裁判官に「お子さんの顔は見ましたか?」と問われて…
その後、2人は強制送還され、窃盗罪で裁きの場に立つことになった。熊井には懲役2年(求刑同4年)、そして藤田には懲役3年(求刑同6年)の実刑判決がそれぞれ言い渡されている。
2人が起訴された事件に関しては合計約600万円の被害が確認されている。しかし、その全てにおいて弁済がなされた。8歳上の熊井の姉が被害弁済金と示談金を負担したのだ。
熊井は帰国して約3か月後、拘置所内で藤田の子を出産している。父親となった藤田は法廷で、裁判官に「お子さんの顔は見ましたか?」と問われて、「接見禁止がついているので、顔も名前も、どうしているかもわからない」と答えている。
裁判を通して熊井も藤田も、「罪を償った後は、生まれた子どもを含めた3人で生活をしていきたい」と未来を語った。熊井と藤田の両親も金銭面を含めて支援をしたいと証言したことは、殺伐とした事件の一連の裁判のなかで唯一の救いとも言えるものだ。
結局、2人目の「ナミ」は自らの意思に反してルフィの子となった。言葉巧みにだまされて渡航、結果「闇バイト」に手を染めた。熊井は自らの意思で、何度も帰国し、贖罪する機会があったから、同情することはできない。南の国で意気投合した仲間と逃避行を続けた挙げ句、被害を大きくした。
まだ自らの意思で立つこともできない子どもに、両親の懲役刑は重くのしかかる。我が子と離れ、塀の中にいる母親である熊井は何を思うのだろうか。
一連の裁判で熊井は「被害弁済はしたのだから、子のためにも執行猶予が必要」との主張を繰り返した。しかし、熊井と子を引き離したのは法ではなく、熊井自身が犯した罪に起因するものだ。その子もまた、ルフィの被害者なのだ。
(週刊SPA!編集部 特殊詐欺取材班/Webオリジナル(外部転載))