【社会】なぜ花粉症は「国民病」になったのか…日本人の4割を苦しめる花粉症が1970年代から急増したワケ

【社会】なぜ花粉症は「国民病」になったのか…日本人の4割を苦しめる花粉症が1970年代から急増したワケ

花粉症の症状が軽視されていた時代から、今では徐々にその重要性が認識されるようになりました。そのため、治療法や対策が充実し、より多くの人が正確な診断を受け、適切な対応を取れるようになったことも、花粉症が国民病になった一因かもしれません。

花粉症に悩む人は多い。なぜ日本人は花粉に苦しむようになったのか。腸内細菌学者の小柳津広志・東大名誉教授は「1970年代に急増し、今では日本人の4割が花粉症になったというデータがある。その原因は抗生物質にあるのではないか」という――。(第2回/全3回)

※本稿は、小柳津広志『東大の微生物博士が教える 花粉症は1日で治る!』(自由国民社)の一部を再編集したものです。

■日本人の4割が花粉症になっている

花粉症アトピー性皮膚炎は最もよく知られたアレルギー疾患です。

花粉症アトピー性皮膚炎アレルギーであることを知らない人は、100人のうち一人くらいしかいないでしょう。ところが、統計的に花粉症や蕁麻疹を含めたアトピー性皮膚炎の患者がどのくらいいるかを調べることは不可能です。

なぜなら、軽い花粉症アトピー性皮膚炎の人は決して病院に行かないからです。私も40年ほど花粉症で苦しめられましたが、一度も病院には行っていません。

ところが、アレルギー性鼻炎(ほとんどが花粉症)、アトピー性皮膚炎、喘息の割合を、NPO法人日本健康増進支援機構が報告しています(図表1)。いったいどうやって、日本国民全体でこのようなデータを手に入れたか定かではありませんが、このデータによると20年ほど前に花粉症は日本人の3割という結果でした。

現在はおそらく4割程度が花粉症だという調査報告が出ています。アトピー性皮膚炎と喘息も合わせると、2人に一人はアレルギーを持っているのです。日本健康増進支援機構の調査でも1970年代以前は、アレルギーを持つ人はほとんどいませんでした。

■1970年代に何が起きたのか

私が経営している喫茶店「カフェ500」にも、多くの花粉症の方が通っています。そのうち、80歳以上で花粉症の方は一人もいませんでした。しかし、70代には非常にたくさんの花粉症の方がいます。この違いは何なのでしょうか?

『あなたの体は9割が細菌』(アランナ・コリン著/河出書房新社)では、「抗生物質の使用がアレルギーの原因となっている」と主張されています。

抗生物質は、1944年ノルマンディー上陸作戦時に負傷した兵士たちの治療に使われたのが始まりです。その時には価格が高くて兵士にしか使われませんでしたが、1950年代に入ると安価になり、淋病、結核、肺炎などに大量に使用されるようになりました。

日本でも同じように、1950年代から一般向けに使用されています。現在、80代の方は1950年代には既に成人になっており、感染症などに罹患(りかん)しない年齢となっていました。つまり、現在80代以上の人は、抗生物質を投与されていなかったのです。

抗生物質花粉症の原因かどうか断定できませんが、明らかに花粉症の患者は抗生物質が普及したあとに急激に増えました。花粉症大気汚染も原因の一つとも言われていますが、この説には疑問符がつきます。

私は、80代の方が花粉症にならなかった事実を知ってから、花粉症の根本原因は、抗生物質の使用にあると確信するようになりました。

■関節リウマチも花粉症との共通点

関節リウマチなど、自分の免疫が自分の体のいろいろな臓器を攻撃する自己免疫疾患も花粉症と同じように1970年代から急増しています。というより、1970年代以前はほとんどこれらに悩む人はいませんでした。

自己免疫疾患も抗生物質が腸内フローラを攪乱することによって、起こしている疾患です。自己免疫疾患というと女性に多いという印象を抱く人が多いと思います。すべての自己免疫疾患が女性に多いのではなく、いくつかの疾患が女性に圧倒的に多いのです。

女性に多い自己免疫疾患の関節リウマチは、患者数が60~100万人もいます。関節リウマチは膠原病というIIIアレルギーの一つです。

膠原病には全身性エリテマトーデスシェーグレン症候群などが含まれ、全体では非常に多くの患者がいる自己免疫疾患です。

関節リウマチは自分の臓器を攻撃する抗体が関節を攻撃します。全身性エリテマトーデスは関節、皮膚、腎臓、肺、中枢神経などさまざまな臓器を攻撃します。膠原病というと皮膚に蝶のような赤い紅斑ができると教わりますが、これが全身性エリテマトーデスの皮膚への攻撃です。

■腸内フローラが原因となっている可能性

シェーグレン症候群は自己抗体が唾液腺と涙腺を攻撃します。目が乾き、口が乾く症状を来たします。膠原病は理由は分かりませんが、なぜか、女性に圧倒的に多い病気なのです。女性は、関節リウマチでは男性の4倍、全身性エリテマトーデスでは9倍、シェーグレン症候群ではじつに17倍も多く発症します。

全身性エリテマトーデスの推定患者数は6~7万人、シェーグレン症候群は10~30万人もいます。関節リウマチも含めた膠原病患者は、自己免疫疾患のなかで圧倒的に多いのです。

膠原病には3つの代表的疾患以外にも多くの病態が含まれます。膠原病は全身に存在するコラーゲンを攻撃する疾患で、攻撃する場所が人によって少しずつ異なり、また、少しずつ重なったりしています。たとえば、関節リウマチの人がシェーグレン症候群でもあるなどです。

自己免疫疾患では、神経細胞を囲む髄鞘という部分を攻撃する多発性硬化症も女性に多い(3~4倍多い)疾患です。患者数は約2万人で、1970年代から急激に増加しています。50歳以上の人に発症するパーキンソン病の発症メカニズムはよくわかっていません。自己免疫疾患あるいは腸内フローラが原因となって起こる病気と考えられています。

リン酸化α─シヌクレインというタンパク質が中脳黒質のドーパミン神経細胞に蓄積してドーパミンが不足することによって起こります。このαシヌクレインは腸の神経から迷走神経を伝わって脳に到達するという仮説が有力となっています。パーキンソン病は女性が1.5倍多い疾患です。患者数は推定15~20万人で1970年代から急増しています。

■精神疾患患者は400万人を超えている

精神疾患も急激に増えています。患者数は毎年約30万人ずつ増え、400万人を超えています。厚生労働省の統計では、うつ病躁うつ病などの気分障害、神経症性障害・ストレス関連障害、精神作用物質使用による精神及び行動の障害、アルツハイマー病が増えています。

これらの疾患は、すべて1970年代以降に増加しています。人の気分や情動は腸内フローラが支配していることが明らかとなってきています。

簡単に言うと、脳に炎症が起こると気分が悪くなり、消極的になるのです。

脳に炎症を起こすのは、ストレスや病気です。ストレスがあると落ち込むことはわかると思いますが、インフルエンザや風邪で熱が出れば心は落ち込みます。熱が出た時に、気分が“るんるん”な人はいません。

脳の炎症を抑えるのが良好な腸内フローラです。腸内フローラを破壊する抗生物質が、精神疾患の原因になっています。

■抗生物質は腸内フローラを悪くする最強の薬物

文部科学省は「通級による指導を受けている児童生徒数の推移」というデータを報告しています。通級とは、なんらかの障害のある子どもが普通の学級に在籍して、個別に特別支援教育を受けることです。

この統計から、注意欠陥多動性障害、学習障害、自閉症、情緒障害の子どもが急激に増えていることがわかります。これらは発達障害と呼ばれています。図4を見ると、平成5年にはこれらの障害のある子どもはほとんどいなかったことがわかります。多くの論文、書籍で、腸内フローラが幼児の脳の発達に大きく影響することが報告されています。

また、子どもに限らず、大人でも腸内フローラは“やる気”“気分”“感情”“行動性”“精神の安定性”を支配していることも認められつつあります。

それでは、人の脳の発達と情動に関係する疾患はなぜ増えたのでしょうか。

答えは簡単です。腸内フローラが悪くなったからです。そして、腸内フローラを悪くする最強の薬物が抗生物質なのです。脳の発達障害と情動障害は抗生物質の使用が始まった1950年代から増え、特に1970年代から急増しています。

■炎症はすべての病気の原因

これまでお伝えしてきたように、すべての病気は炎症を起こし、逆に、炎症が起こると病気になります。がんも炎症を起こしますので、炎症が起きると出てくる物質、炎症性サイトカインの血中濃度が上がります。

みなさんが忌み嫌う、シミとシワのでき方で、炎症というものをわかりやすく説明していきましょう。

図5は最も一般的な炎症反応を示しています。出演しているのはサイトカインだけです。皮膚の紫外線による炎症は、紫外線が皮膚の表皮や真皮に照射されると活性酸素が発生することで起こります。活性酸素が発生すると、皮膚の細胞はTNFαなどの炎症性サイトカインを放出します。

これが皮膚の炎症で、結果として、皮膚は赤く腫れます。一部の細胞は死んだり、メラノサイトという細胞からメラニン(黒色色素)が放出されます。やがて、炎症が起こった皮膚には、シミやシワができるのです。

ところが、大腸の酪酸菌を増やし炎症を抑えれば、皮膚のシミやシワはできないようになります。また、皮膚は赤く腫れることなく、ゆっくり黒く日焼けしていきます。大腸の酪酸菌を増やして全身の炎症を抑えれば、日焼け止めクリームを塗る必要はありません。

また、大腸の酪酸菌が増えると肌がつるつるになり、水を撥くようになります。血流もよくなり手足の冷え症も改善されます。そうなれば、高いお金を使っている、洗顔料、化粧水、美容液、乳液、クリームなどの基礎化粧品を使う必要がなくなります。美しく見せるためのメイクアップ化粧品を買えばよいだけになります。

■炎症が起きるメカニズムとは

ここで、免疫系について説明しましょう。免疫に関わる細胞は膨大な種類があります。ここでは、その機能が比較的よくわかっているものだけについて説明します。

図表6で示されているように、免疫系の細胞はすべて骨髄で造血幹細胞から作られます。図表にある赤血球と血小板免疫系の細胞ではありませんが、起源は同じです。骨髄では単球、顆粒(かりゅう)球、リンパ球が作られ、単球は脾臓(ひぞう)に蓄積され、マクロファージや樹状細胞などになります。

リンパ球は胸腺に入ったものは、Tリンパ球となり、Bリンパ球とともに脾臓に蓄えられ、リンパ組織に移動します。分化したTリンパ球とBリンパ球はリンパ管、血流、組織を巡回します。この間、さまざまなサイトカインに曝されるとTh1、Th2、形質細胞、メモリーB細胞などに分化します。

Tリンパ球もBリンパ球も外敵やがんなどの異常細胞の作る抗原につくタンパク質を作ります。この抗原につくタンパク質は、一つ一つのリンパ球で異なるように無数の種類のリンパ球が作られます。抗原である外敵や毒性物質は多種多様ですので、これにつくタンパク質も多様でなければ外敵や毒性物質の抗原を抑え込むことができません。

■免疫を理解すれば炎症は抑えられる

抗原につくタンパク質はTリンパ球では抗原認識受容体と呼ばれ、Bリンパ球では抗体と呼ばれています。Tリンパ球は免疫系全体の司令塔となるもので、何を攻撃するかを決める細胞です。ですから、Tリンパ球は決して自分の細胞を攻撃しないように、胸腺の中で厳しい審査を受けるのです。自分の細胞を攻撃するTリンパ球は破壊されます。リンパ管、血流、組織を巡回するリンパ球は、やがて、さらに分化して外敵や異常細胞を見つけて攻撃します。

血流を流れる顆粒球は、好中球、好酸球、好塩基球の3種類ありますが、大部分が好中球です。好中球は細菌が侵入した時に貪食し、緑色の膿になります。好中球は肝臓や脾臓に蓄えられ、細菌が侵入した時に患部に移動します

リンパ球が抗原を攻撃するようになるには、数日かかります。好中球とマクロファージはリンパ球が攻撃する前に、抗原を貪食することによって攻撃します。

■花粉症を治すために必要なこと

前項ではTリンパ球のことを説明しましたが、体中を巡回するTリンパ球は大腸でTレグ細胞(制御性T細胞)に分化します。この分化は酪酸菌が作る酪酸が関与していることが知られています(図表7)。

Tレグ細胞は炎症抑制を行う細胞ですが、どのように抑えるか、まだよくわかっていません。しかし、何が、どのように炎症を抑えるかはそれほど重要なことではありません。何を食べると腸内細菌が炎症を抑えてくれるかを、知ればよいだけなのです。

私はフラクトオリゴ糖を摂るとあらゆる炎症が抑えられることを発見しましたが、野菜に含まれるフラクトオリゴ糖は、じつは、新石器時代(新石器時代は農耕が始まった時代で日本では縄文時代)以前の人は多量に摂っていたと考えられます。

新石器時代以前には米、麦、蕎麦、芋、砂糖など糖質を大量に含む食品はありませんでした。これらの糖質食品の代わりに根菜類、野草、木の実小動物、魚介類を大量に食べていたのです。

蜂に刺されると肌が赤く大きく腫れますよね? 旧石器時代は狩猟採集をしていますので、蜂に刺され放題です。蜂に刺されて痛がっていたら狩りは続けられません。フラクトオリゴ糖を大量に摂っていると、蜂に刺されても、蚊に刺されても腫れません。ですから、旧石器時代の人々は楽々と狩りが続けられていたのです。

———-

小柳津 広志(おやいづ・ひろし)
東京大学名誉教授 株式会社ニュートリサポート代表取締役
1953年12月10日生まれ。静岡県出身。1977年東京大学農学部農芸化学科卒業。富山大学教養部助教授東京大学大学院農学国際専攻教授等を経て、2003年より東京大学生物生産工学研究センター教授。2016年に東京大学を退職。現在は東京大学名誉教授に就く。専門は微生物系統分類、腸内細菌学など。2017年3月、神奈川県横須賀市に高齢者を対象とした減塩カフェ「カフェ500」をオープン。著書に『東大微生物博士が教える 花粉症は1日で治る!』(自由国民社)などがある。

———-

※写真はイメージです – 写真=iStock.com/monzenmachi

(出典 news.nicovideo.jp)

続きを読む

続きを見る