【社会】性犯罪「刑が軽すぎる」と怒りの声多数…現行の法律ではどうなっている? 弁護士に聞く
【社会】性犯罪「刑が軽すぎる」と怒りの声多数…現行の法律ではどうなっている? 弁護士に聞く
3月11日、大手学習塾「栄光ゼミナール」の個別指導専門塾で教室責任者をしていた男が、盗撮の容疑で逮捕されたことが報道されました。報道によると、男は塾が入るビルの女子トイレにスマートフォンを設置し、複数の女性を盗撮した疑いがもたれているということです。
学習塾での盗撮事件については、教え子の女子児童を盗撮したとして罪に問われていた大手中学受験塾「四谷大塚」の元講師に、検察側が懲役2年を求刑したと報道されていますが、SNS上では「たった2年…?」「性犯罪者の刑が軽すぎる」「厳罰化すべき」「今の刑法ではこれが限界なのか」「再犯が多いといわれているのに…」「性犯罪を甘く見すぎ」「正直、二度と刑務所から出てきてほしくない」など、怒りの声が多数上がっています。
実際のところ、性犯罪について、現行の法律ではどのような刑罰が定められているのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。
最も重い刑は「無期または6年以上の懲役」
Q.そもそも「性犯罪」にはどのような種類があるのでしょうか。
佐藤さん「性犯罪には、さまざまな種類があります。身体的接触を伴う性犯罪と、伴わない性犯罪に分けて解説します」
【身体的接触を伴う性犯罪】
「痴漢」(迷惑行為防止条例違反)、「不同意わいせつ罪」(刑法176条)、「不同意性交等罪」(刑法177条)が有名です。
一般的な痴漢行為、すなわち、公共の場所で衣服や下着の上から身体を触る行為は、自治体が定める、いわゆる迷惑行為防止条例で規制されています。下着の中に手を入れるなど、悪質な痴漢行為については、不同意わいせつ罪に問われることがあります。また、同意なく性交等をすると、不同意性交等罪に問われる可能性があります。
なお、16歳未満の者へのわいせつ行為や性交等は、同意の有無にかかわらず、不同意わいせつ罪や不同意性交等罪に問われます。ただし、13歳以上16歳未満の場合、同年代との恋愛に基づく性交等を規制することになってしまうのを避けるため、相手が5歳以上年上だった場合に、同意の有無にかかわらず、不同意わいせつ罪や不同意性交等罪が成立することになっています。
この他、18歳未満の児童に対する性犯罪については、児童買春・児童ポルノ処罰法、児童福祉法、健全育成条例などによって、さまざまな規制がなされています。
【身体的接触を伴わない性犯罪】
「公然わいせつ罪」(いわゆる露出行為―刑法174条)、「撮影罪」(いわゆる盗撮行為―性的姿態撮影等処罰法違反)が有名でしょう。
いわゆる露出行為、すなわち不特定または多数の人がいる場において、陰部などを露出する行為が、公然わいせつ罪にあたります。いわゆる盗撮行為、すなわちスカート内にカメラを入れるなどして、こっそり写真や動画を撮影するような行為は、撮影罪にあたります。盗撮した画像を提供したり、提供目的で保管したりすることも罪に問われます。
Q.現行の法律において、性犯罪にはどのような刑罰が設けられているのですか。また、“最も罪が重い”性犯罪とは。
佐藤さん「先に挙げた性犯罪の法定刑は、次の通りです」
・痴漢(迷惑行為防止条例違反)……6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金(東京都の場合)
・不同意わいせつ罪(刑法176条)……6カ月以上10年以下の拘禁刑
・不同意性交等罪(刑法177条)……5年以上(20年以下)の有期拘禁刑
・公然わいせつ罪(刑法174条)……6カ月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料
・盗撮(性的姿態撮影等処罰法違反)……3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金
佐藤さん「最も罪が重いのは、かつて『強姦罪』として定められていた『不同意性交等罪』です。不同意わいせつ罪や不同意性交等罪を犯し(または犯そうとして)、それによって相手を傷つけたり、死なせてしまったりすると『不同意わいせつ等致死傷罪』が成立し、罪はさらに重くなります」
・不同意わいせつ致死傷罪(刑法181条1項)……無期または3年以上の懲役
・不同意性交等致死傷罪(刑法181条2項)……無期または6年以上の懲役
刑罰を科すだけで再犯を防ぐのは「難しい」
Q.性犯罪は「再犯率が高い」といわれていますが、これはなぜなのでしょうか。
佐藤さん「法務省の『再犯防止推進白書』によると、『性犯罪の2年以内再入率は2020年出所者で5.0%となっており、出所者全体(15.1%)と比べると低く、再犯率が高いとまではいえない』とあります。しかし、『その一方で、性犯罪は“魂の殺人”といわれるように、被害者の尊厳を著しく踏みにじる行為であり、その心身に長期にわたり重大な悪影響を及ぼすことから、再犯率の高低にかかわらず、その根絶は、喫緊に取り組むべき課題』とされています。
性犯罪の背景には、性的依存症が隠れているケースもあり、単に刑罰を科すだけで再犯を防ぐことは難しく、刑事施設や保護観察所では専門的プログラムが実施されています」
Q.性犯罪については、「刑が軽すぎる」「厳罰化すべき」など厳しい声が多く聞かれます。
佐藤さん「刑法の性犯罪規定は2017年、法定刑を引き上げる厳罰化や、被害者に男性も含めるなど、110年ぶりに大幅改正されました。その後、2023年、強制性交等罪が『不同意性交等罪』になったり、盗撮行為を取り締まる性的姿態撮影等処罰法が施行されたりと、厳罰化、処罰範囲の拡大が進んでいます。
性的自由を侵害することは『魂の殺人』であり、決して許されることではありません。変わり続ける社会に合った罪と罰を法で定めるとともに、さらなる専門的プログラムの充実化をはかり、未然防止・再犯防止に努めることが大切だと思います」
オトナンサー編集部