【社会】取締法改正でどうなる? 日本における良い大麻、悪い大麻を規定「大麻業界」の今とこれから

【社会】取締法改正でどうなる? 日本における良い大麻、悪い大麻を規定「大麻業界」の今とこれから

規制が緩和されることで、医療や産業利用などの健全な目的で大麻を利用することが促進されるかもしれません。ただし、適切な規制や管理が必要となることも忘れてはいけません。

日本の大麻畑。栃木県などの一部の自治体では、現在でも農作物としての大麻が栽培されている
日本の大麻畑。栃木県などの一部の自治体では、現在でも農作物としての大麻が栽培されている

昨年12月に法改正されたばかりの大麻取締法。今年に入ってからも所持や譲渡などの大麻関連で逮捕される者は続出する一方、法改正により医療用大麻が解禁されることとなり、民間ではCBDカンナビジオール)などの大麻由来の成分を配合したオイルやグミなどの人気も衰えない。

一見カオスにも見える大麻を巡る状況を、業界関係者からのコメントを交えて、クリアに整理する。

【図表】図表・大麻成分と大麻のタイプの違いほか

■日本における良い大麻、悪い大麻

日本では「ダメ、ゼッタイ。」な違法薬物としての印象が強かった大麻。しかし、ここ数年で状況が急変している。最も象徴的なのは、昨年12月に大麻取締法が75年ぶりに改正されたこと。

この法改正で注目されているポイントのひとつ目は、「医療用大麻の解禁」だ。これによって、難治性てんかんなどの患者が、大麻から製造された治療薬を使用することができるようになる。

そして、ふたつ目は「使用罪の創設」。以前は大麻の「栽培・所持・譲渡」などが禁じられていたが、法改正後は尿検査で大麻の陽性反応が出れば「使用」によって罰せられる。最近では、法政大学アメリカンフットボール部員が大学による尿検査で大麻の陽性反応が出たことも話題となった(その後の警視庁での再検査では陰性)。

このように、大麻取締法の改正には解禁と規制のふたつの側面がある。それを印象づけるのは、大麻に関する法令が「大麻取締法」から、規制を緩和する「大麻草の栽培の規制に関する法律」と、規制を強化する「麻薬及び向精神薬取締法」に割り振られたことだ(図表1)。

つまり、日本における「良い大麻」と「悪い大麻」を定義したともいえる。改正法は公布から1年以内に施行される予定だが、大麻業界はこれをどう受け止めているのか? 4つの分野の関係者に話を聞いた。

■大麻は日本の伝統文化だった!

ひとつ目の分野は「日本文化」。意外かもしれないが、大麻は私たちの衣食住を1万2000年以上前からほんの70年前まで支えてきた、身近な「農作物」である。

日本で伝統的に栽培されていた大麻は、向精神作用をもたらす成分THC(テトラヒドロカンナビノール)が少ない「繊維型」の品種だが、これまではTHCの多い「薬用型(≒マリフアナ)」とひとくくりにされ、厳しく取り締まられてきた(図表2)。

厚生労働省の記録によれば、1954年の時点で日本には3万7000軒を超える大麻農家がいたが、現在は20数軒にまで激減している(2021年末)。しかし、神社における神事や鈴緒、横綱の綱、麻織物、たこ糸、弓の弦、和紙、たいまつ、花火の助燃剤、茅葺(かやぶ)き屋根材、お盆のオガラなど、日本文化に欠かせないものとして現在も生産されている。

18年に三重県から認可を受け、神事・伝統用の大麻を生産している株式会社伊勢麻の松本信吾代表は、法改正について次のように話す。

「『規制』から『利用』の道を開いた点については大いに評価しています。同時に、これまでの大麻の規制、啓蒙のでたらめさについては猛省していただきたいですね。これから決まっていく法律の運用ルールが、大麻草の活用の幅を狭めないものになることを強く要望します」

法改正以降も、大麻栽培には都道府県知事が発行する免許が必要だ。しかし、法律の性質が大きく変わったため、各都道府県が改正法をどう運用するか次第で、状況は一変しうる。もしかしたら、かつてのように日本各地に大麻畑が戻ってくるかもしれない。

■日本でも新たな産業が生まれる?

ふたつ目は「産業」だ。大麻は、世界的な環境意識の高まりとともに、大量の水や農薬を必要とせずに短期間で大きく成長する植物資源として注目を集めている。

多くの国ではTHC濃度が一定基準以下の品種(イギリスでは0.2%以下、欧州、カナダ、米国、中国は0.3%以下、オーストラリアスイス、タイは1.0%以下)が「ヘンプ」と定義されている。

日本はこれまで、成熟した茎と種子を合法、花や葉などのその他の部分を違法と、部位によって規制していた。しかし、昨年の法改正でようやく成分での規制に変更されることなった(数値は今後決定されるが、0.2%もしくは0.3%が有力)。

実はヘンプ製品は、すでに国内でも多く流通している。繊維としてはリーバイスやパタゴニア、無印良品などでも取り扱われている。さらには、スーパーフードとして注目を集めるヘンプの種子(ヘンプシード七味唐辛子にも含まれている)や、近年人気のCBDカンナビジオール)製品もこの産業分野に含まれる。

これまでは海外から輸入する原材料に頼っていたが、栽培免許を取得できれば日本でもヘンプの栽培が可能になる。これによって新たな製品・サービスと市場が生まれ、休耕地活用や地方創生といった動きにつながる可能性は大きい。

08年から衣食住におけるヘンプの活用をテーマに、衣類や食品の開発・販売を行なってきた麻福株式会社の北村隆匡(たかまさ)代表は「国としてGX(グリーントランスフォーメーション)を推進していく中、ヘンプの活用がようやく可能となったのは喜ばしい。一方で、諸外国はかなり先行している。日本の行政にはスピード感を持って動いてほしい」と話す。

麻福が販売するヘンプ製のストール。「伊勢・外宮参道みやげ」としても売られている。写真提供/麻福
麻福が販売するヘンプ製のストール。「伊勢・外宮参道みやげ」としても売られている。写真提供/麻福

また、16年という早い時期から日本でCBD事業を展開しているエリクシノール株式会社の松丸誠代表は「引き続き、社会からの理解が深まるようなことをしていく必要があると思います。お客さまに安全な製品を届けられるよう、今後も努めていきたい」と話す。

エリクシノールが販売するCBDオイル。口内に垂らしたり、飲食物に入れたりして使用する。写真提供/エリクシノール
エリクシノールが販売するCBDオイル。口内に垂らしたり、飲食物に入れたりして使用する。写真提供/エリクシノール

■世界に逆行する嗜好大麻の厳罰化

さて、日本文化と産業で利用される大麻は、規制緩和によって「良い大麻」と再定義された。

一方で、マリフアナの喫煙など「嗜好」領域は「悪い大麻」と明確化。使用罪の創設に加えて、5年以下だった単純所持罪の懲役も7年以下と厳罰化され、麻薬及び向精神薬取締法では、THCを「麻薬」と位置づけた。

欧米や東南アジアでは嗜好用大麻の解禁が大きな潮流となっている現在、SNSでは「世界の流れに逆行している」という非難も多く見かける。刑事政策や犯罪学を専門とする立正大学法学部の丸山泰弘教授も、厳罰化の問題点を指摘する。

「大麻が覚醒剤コカインなどハードドラッグと同じ『麻薬』のカテゴリーになることで、さらなる混乱を招くことになるのではないでしょうか。科学的根拠に基づいた薬物政策をしっかりと検討する必要があると考えています」

大麻の危険性は、コカインはおろかニコチンやアルコールより低いとする研究もある(図表3)。こうした面を踏まえて、日本の薬物政策を注視していく必要があるだろう。

■「医療大麻」とは何を指すのか?

最後は「医療」分野だ。近年メディアを通じて「医療大麻」という言葉を聞く機会が増えているが、この言葉の意味があまり理解されないまま広まっていると感じるケースは多い。

ひと口に「医療」と言っても、医師が管理して特定の疾病の治療のために処方される「医薬品」と、ウェルネスやセルフケアなど”広義の医療”として、健康増進のために用いる「薬草」に大別されるからだ。

大麻から製造される医薬品については、近年アメリカをはじめとする欧米各国において使用が承認されるなど、国際的に医療上の有効性が認められてきた。今回の法改正では、難治性てんかん治療薬「エピディオレックス」をはじめとした医薬品の施用や製造、さらには医療目的の大麻の栽培も可能となった。

日本ではこれまで大麻由来の医薬品は、施用はもちろん研究や開発もまったく進んでいなかったが、今後は製薬会社や大学などを中心に活発な動きとなるだろう。

一般社団法人日本臨床カンナビノイド学会の理事長で、聖マリアンナ医科大学脳神経外科学教授などを務める太組(たくみ)一朗氏は「大麻を医薬品として使用できるようになった。この観点から法改正には100パーセント満足。難治性てんかん以外の疾患においても大麻由来の医薬品が有効ならば、国産の創薬を目指したい」と話す。

一方で、後者の薬草については、改正でより厳格に規制されることとなった。酩酊するために大麻を吸うことと、健康目的で大麻を吸うことは、目的は異なれど同じ行為と見なされるためだ。

ここで問題になるのが、日本へのインバウンド観光客についてである。”広義の医療”としての大麻に関して情報発信を行なっている薬草大麻ラボの代表は「カナダ、アメリカの一部の州、タイなどでは薬草としての大麻利用は合法です。

改正法どおりの法運用を行なえば、外国人観光客が日本を訪れたとして、もし何かのきっかけで尿検査が行なわれ大麻の陽性反応が出れば、当然『使用』と見なされて処罰の対象とされます。場合によっては国際問題となる可能性もあり、今後の大きな論点になると予想されます」と懸念する。

法改正を経て、日本の大麻を巡る状況は激変した(図表4)。しかし、海外とのギャップが深まった面もある。北米を中心に、大麻は産業・嗜好・医療面で莫大な税収や雇用を生み出しており、「グリーンラッシュ」とも呼ばれている。

こうした動きに日本がキャッチアップするためには、今回の法改正を暫定的なものとして、大麻に関してよりフラットで開かれた議論が行なわれていくべきだろう。

●大麻博物館
一般社団法人。2001年に栃木県那須町に開館。日本人の営みを支えてきた農作物としての大麻の情報収集や発信を行なう傍ら、各地で講演や「麻糸産み後継者養成講座」などのワークショップを開催。著書に『日本人のための大麻の教科書 「古くて新しい農作物」の再発見』(イースト・プレス)などがある。

取材・文・写真/大麻博物館

日本の大麻畑。栃木県などの一部の自治体では、現在でも農作物としての大麻が栽培されている

(出典 news.nicovideo.jp)

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