【社会】同じ世襲でも炎上辞任した「岸田首相の息子」とは大違い…自民党支持者が「進次郎首相」を待望する本当の理由

【社会】同じ世襲でも炎上辞任した「岸田首相の息子」とは大違い…自民党支持者が「進次郎首相」を待望する本当の理由

岸田首相の息子と比べても、進次郎氏は明るい人柄や庶民的なポリシーが人気の秘訣なのでしょう。彼が首相になれば、若者や女性などの支持層も広がるかもしれませんね。

小泉進次郎氏が9月6日に記者会見を開き、自民党総裁選挙への立候補を表明する。神戸学院大学の鈴木洋仁准教授は、「進次郎氏の『育ちの良さ』が、プラスに作用しているのではないか。同じ『世襲』でも、岸田首相の長男・翔太郎氏とは大きな違いがある」という――。

■小泉進次郎氏が「自民党支持層」から人気を集めるワケ

「進次郎フィーバー」が止まらない。

小泉進次郎氏が、自民党の総裁選挙への立候補表明を9月6日に行う。進次郎氏は、日本経済新聞社とテレビ東京が8月21日と22日に実施した世論調査では、「事実上の首相となる次の自民党総裁にふさわしい人」で23%を集め首位に、産経新聞社とFNN(フジテレビ系列のニュースネットワーク)が8月24日と25日に行った調査では、22.4%でトップだった。

読売新聞の調査では、石破茂氏の22%に次ぐ2位(20%)になったものの、注目すべき点は、自民党支持層からの人気である。各社の世論調査結果によれば、進次郎氏は、自民党支持層に限ると、共同、日経、読売、朝日、産経の5社の調査で首位となったのである。石破氏が野党支持層の人気を集めていると、かねて指摘されているから、逆に、自民党支持層では相対的に進次郎氏が浮上する。そう考えれば、とりたてて驚くには値しないのかもしれない。

ただ、とりわけ自民支持層が進次郎氏を評価する理由は、彼が「世襲」議員だからなのではないか。

■一見すると「世襲」への世論は厳しいが…

今回の自民党総裁選には、12人の名前が挙がっている。作家・個人投資家の山本一郎氏がコミカルに描いた表(文春オンライン)のように、12人のうち5人が「世襲」とされており、加藤勝信氏は「お婿さん」と書かれているから、広い意味で親に続く候補者は半数いると言えよう。

2021年の総裁選では、4人の候補者のうち3人(岸田文雄、野田聖子、河野太郎の3氏)が「世襲議員」だった点が批判の的となった。立憲民主党の代表選への立候補を表明した野田佳彦元首相が「世襲の禁止」を訴えたり、毎日新聞が昨年12月8日付の社説で「国会議員の世襲制限」を掲げたりするなど、一見すると世論は厳しい。

日本政治を研究するダニエル・M・スミス氏(現在はペンシルバニア大学助教授)は、2019年に雑誌『中央公論』のインタビューに応え、「世襲」は「日本だけに見られる現象ではありませんが、日本は、その数があまりにも多すぎる」と答えており、小泉進次郎氏への逆風は強まりこそすれ、追い風にはならないように見える。

■不祥事で地位を追われた「世襲政治家」たち

実際、「世襲」の廉(かど)で、その地位を追われた議員の子どもは目立つ。

昨年6月、岸田文雄首相の長男・翔太郎氏が内閣総理大臣秘書官を辞任したのは、一昨年の末に首相公邸で行った「忘年会」の写真が『週刊文春』で報じられたからであり、岸田首相は、記者団に対して「公邸の公的なスペースにおける昨年の行動が、公的立場にある政務秘書官として不適切。けじめをつけるため交代させることといたしました」と述べていた。

また、前回の総選挙(2021年)では、女性問題で自由民主党を追われた中川俊直氏(広島4区)が落選している。その父・秀直氏は、内閣官房長官や自民党幹事長を歴任した大物であり、祖父・俊思氏もまた8期にわたって衆議院議員を務めている。「世襲」議員への批判の常套句である「地盤(後援会)・看板(知名度)・カバン(資金力)」の3つを取り揃えながらも、当選を果たせなかったのである。

■国内外で波紋を呼んだ「セクシー」発言

なるほど、日本経済新聞が調べたように、「世襲候補は当選率が高い」とはいえ、必ず当選するわけではないし、麻生太郎氏の「未曾有(みぞうゆう)」「踏襲(ふしゅう)」「頻繁(はんざつ)」といった漢字の読み間違えが、「政治的な信頼感が失墜するきっかけになった」との意見があり、「世襲」ゆえの弊害だとする見方があった。

進次郎氏もまた例外ではない。

あの「進次郎構文」にとどまらず、環境大臣時代の2019年、国連気候行動サミットで「気候変動問題に取り組むことはきっとセクシーでしょう」と英語で述べて波紋を呼んだり、その2年後には、政府の2030年度の音質効果ガス排出の削減目標を46%(2013年度比)と掲げた点について、TBS系の「NEWS23」のインタビューで「おぼろげながら浮かんできた」と述べたりした姿勢を、主にネット上で、もてあそばれてきた。

すべてが「世襲」のせいではないとはいえ、「おバカなボンボン」とみなされるや否や徹底して叩かれる、そんな傾向があるのではないか。

なのになぜ、進次郎氏への支持が集まるのか。

■進次郎氏の絶妙な「キャラ」

ひとつは、彼のキャラが立っているからである。

まずは、あの父・純一郎氏を後ろ盾にしている、というのは、とてつもなく大きい。2008年9月27日に神奈川県横須賀市で行われた後援会で「後継には、進次郎を認めてもらいたい」と純一郎氏から指名された(※1)、そのアドバンテージは、他の人には真似できない。さらに、その父との関係へのスタンスも絶妙と言えよう。

「50歳までは総裁選に出るな」と純一郎氏が周囲に語ったとする報道について、8月10日のラジオNIKKEIのポッドキャスト番組で否定した上で、「歩みを進めるも引くも、自分で決めるのは当たり前のことだ」と語っている。父から地盤を受け継ぎながらも、決して従順な息子ではない。そんなイメージ戦略を、総裁選直前の勝負どころで見せる。その勘、嗅覚こそ、父親譲りにほかならない。

「世襲」に対する立場もまた、絶妙である。2009年の初当選時に進次郎氏は、「皆さんが当選させて初めて世襲は成立するんです。有権者の皆さんの判断だと思うんです」と語っている。選挙という民主主義の根本をなす仕組みによって審判を受けている以上、いくら有利だからといっても、最後には有権者が決めている。この原理を臆面もなく言える。ここに、彼のキャラが象徴されている。

■岸田翔太郎氏との決定的な違い

岸田翔太郎氏は、その辞任のきっかけとなった「忘年会」の際、首相公邸の階段で写真を撮っていた。閣僚たちが組閣にあたって記念撮影する、いわゆる「ひな壇」に親戚一同で並び、その中心、つまり、総理のポジションに翔太郎氏が立っていた。単なる座興というか、度が過ぎたとも言えるが、進次郎氏なら「忘年会」はおろか、こうした写真を撮影しようとの発想すら抱かなかったのではないか。

進次郎氏は「世襲」を所与の、すなわち、良くも悪くも、すでにあるものとして、冷静に受け止めている。対して翔太郎氏は、「世襲」を「忘年会」のネタにする程度に意識していたのではないか。「世襲」を意識しすぎているからこそ、その肩へのチカラの入りようが、火に油を注ぐ結果となったように思われる。

「世襲」と言われるのは仕方ない、と諦めている進次郎氏に比べて、翔太郎氏は、距離感を測りかねていたのではないか。

この対比は、進次郎氏が人気を博している2つめの理由にもつながる。

それは「育ちの良さ」である。

参考文献
※1:大下英治『小泉純一郎・進次郎秘録』(イースト・プレス)

■「育ちがいい人は臆するところがない」

かつて、コラムニストの故・ナンシー関氏は、「世間て、たたきあげも好きだけど由緒正しいサラブレッドも好きだし」と喝破した(※2)。いまから27年前、1997年のNHK紅白歌合戦に初出場した松たか子氏をめぐる評論のなかで、次のように述べている。

しかし松たか子は「出場できて嬉しいです。頑張ります」と微笑みながらも、「出たい」感が希薄なのである。育ちの良さの延長としての来るものは拒まずというか、身についた適切な社交辞令のようなものとしか感じられない。

進次郎氏の「育ちの良さ」も、これと同じなのではないか。自民党の総裁、すなわち、総理大臣になる、そこに向けて、彼は奮闘するのだろうし、これまでも精進してきた。けれども、その姿には泥臭さがない。

いや、泥臭さがないと、支持している側が思いたい、思おうとしているのではないか。

歴史学者の本郷和人氏は、『世襲の日本史』(NHK出版新書)の「あとがき」で、「安倍晋三総理大臣と異なる政治的意見をいろいろと持っています。でも、外交の場で各国の首脳と堂々と渡り合っている姿を見ると、すごいなあ、と感嘆せざるを得ません」と述べ、その理由として、「育ちがいい人は臆するところがないんでしょうね(※3)」と書いている。

■「私利私欲のなさ」に、かすかな希望を託したい

進次郎氏が、本当に、心の底から、自民党総裁になりたい、とか、総理大臣になりたい、と願っているのかどうかは、定かではない。一般論として、人の心はわからない、というだけではない。そう思わせるのは、彼が「皆さんが当選させて初めて世襲は成立するんです」と突き放すように言い放つ無邪気さにある。

血みどろの権力闘争を勝ち抜いて総理の座を勝ち得る、そんなサクセスストーリーは、父・純一郎氏もまた描かなかった。郵政民営化をはじめ、自分の信じた道をただ進む。無心というか、私利私欲のなさを醸し出していたのではないか。

その息子たる進次郎氏には、もっと私心がないように、自民党支持層に映っているにちがいない。しかも、石破茂氏のように、野党から持て囃される軽率さ=邪心がない。より純粋に、ことによれば天然に、政治に向き合っている「育ちの良さ」が好感度を上げている。

「格差社会」が言われて久しいからこそ、「たたきあげ」には見られない、その「育ちの良さ」に、かすかな希望を託したい。切なる願いを凝集した先にいるのが、進次郎氏なのかもしれない。

参考文献
※2:ナンシー関『何がどうして』(角川文庫)
※3:本郷和人『世襲の日本史「階級社会」はいかに生まれたか』(NHK出版新書)

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鈴木 洋仁(すずき・ひろひと)
神戸学院大学現代社会学部 准教授
1980年東京都生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(社会情報学)。京都大学総合人間学部卒業後、関西テレビ放送、ドワンゴ、国際交流基金、東京大学等を経て現職。専門は、歴史社会学。著書に『「元号」と戦後日本』(青土社)、『「平成」論』(青弓社)、『「三代目」スタディーズ 世代と系図から読む近代日本』(青弓社)など。共著(分担執筆)として、『運動としての大衆文化:協働・ファン・文化工作』(大塚英志編、水声社)、『「明治日本と革命中国」の思想史 近代東アジアにおける「知」とナショナリズムの相互還流』(楊際開、伊東貴之編著、ミネルヴァ書房)などがある。

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(出典 news.nicovideo.jp)

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