【社会】職場における温度、匂い、音等は、どういう人がシンドイと思っているのか

【社会】職場における温度、匂い、音等は、どういう人がシンドイと思っているのか

温度が高いと集中力が落ちるし、冷えると体が硬くなってしまいます。快適な室温が保たれている職場がいいですね。

ニッセイ基礎研究所が被用者を対象に実施した「被用者の働き方と健康に関する調査」によると、およそ4割(2024年調査では40.2%)の人が「職場の作業環境(騒音、照明、温度、換気など)はよくない」と感じていた。よくない内容を尋ねた結果、「冬、職場が寒い」が最も高く、次いで「夏、職場が暑い」「換気が悪い」「機械類の音がうるさい」が続いた。それぞれ、どういった人が職場の作業環境のどういった内容によくないと感じているのか、ニッセイ基礎研究所の村松容子氏が解説する。

1.はじめに

2024年3月にニッセイ基礎研究所が被用者を対象に実施した「被用者の働き方と健康に関する調査」において、およそ4割(2024年調査では40.2%)の人が「職場の作業環境(騒音、照明、温度、換気など)はよくない」と感じていることを紹介した。この質問に対して「そうだ」または「まあそうだ」と回答した人に対して、よくない内容を尋ねた結果、「冬、職場が寒い」が最も高く、次いで「夏、職場が暑い(33.8%)」「換気が悪い(23.9%)」「機械類の音がうるさい(18.0%)」が続いていた。

どういった人が、よくないと感じているのかを見た結果、男性、34歳以下、所定労働時間が8時間超、座位時間が短いで、職場にいる時間が長い人外回りや立ち仕事が多いと考えられる人で高かった。一方、週3日以上在宅勤務を行っている人では、よくないと感じている割合は低かった。業種によってもよくないと感じている割合は異なっており、個々の職場における作業環境の違いはあろうが、業種や職種、働き方による差もあると考えられた。

本稿では、それぞれどういった人が職場の作業環境のどういった内容によくないと感じているのかをみた。

2.職場の温度、換気、音、デスクやレイアウト、健康増進についての取り組みに関する特徴(概要)

結果を先に紹介すると、温度、換気、音、デスクや椅子のサイズ・オフィス内のレイアウト、従業員の健康増進についての取り組みについて、以下の示唆が得られた(詳細は、Appendixを参照ください)。

職場の温度

温度については、作業環境としてよくない内容の上位にあがっている。「冬、職場が寒い」と「夏、職場が暑い」が同時に高くなっているケースが多く、屋外での作業や空調が十分でない作業環境が心身に影響を与える可能性が懸念される。年齢では、高年齢ほど「冬、職場が寒い」と「夏、職場が暑い」と感じており、同じ温度であっても年齢が高い人で温度調整が不十分であると感じている可能性が考えられる。また、女性で「夏、職場が寒い」が高いほか、座位時間が8~10時間や在宅勤務頻度が月1~3回程度、または週1日程度のやや職場にいる時間が長い人で「冬、職場が暑い」が高く、空調が効きすぎと感じるケースもあった。ただし、「冬、職場が寒い」や「夏、職場が暑い」は在宅勤務を週に3日程度以上(もしくはほぼ毎日)とっている人で負担が軽くなっていた。

換気

換気については、温度と同様に作業環境としてよくない内容として比較的上位にあげられた。生産、技能職(一般事務等事務職との比較)や、所定労働時間が長い人で悪いと感じており、室内作業が多かったり、自分で換気ができない環境で、気になる項目だと考えられた。換気について、今回の結果に加えて、新型コロナウイルス感染症対策として「換気」を含むいくつかの対策実施状況を加味したところ、自宅の換気は行っているが、職場の換気は行っていない人、ワクチンを打っている人で「換気が悪い」と回答している傾向が見られたことから、コロナ禍後、換気に対して敏感になっている可能性が考えられる。年齢が高い人で「換気が悪い」と回答していたのは、新型コロナ感染症によるリスクが高年齢者ほど高かったことから、コロナ不安が関連している可能性がある。換気についても、在宅勤務を週に3日程度以上(もしくはほぼ毎日)とっている人で負担が軽くなってた。

音については、「電話や人の声がうるさい」「機械類の音がうるさい」といった音の問題は、温度、換気に次いで高い。例えば生産、技能職では、「機械類の音がうるさい」がプラスであるのに対し、「電話や人の声がうるさい」はマイナス、座位時間が3時間未満では、「機械類の音がうるさい」が高いのに対し、10時間以上で「電話や人の声がうるさい」が高い等、「電話や人の声がうるさい」と「機械類の音がうるさい」の両方が高いケースはない。しかし、在宅勤務を週3日程度以上(もしくはほぼ毎日)利用している人では両方が低く、音に対する負担が軽くなっていた。

照明については、「照明が暗い」「照明がまぶしい」のいずれも作業環境のよくない内容として、順位が特に高い項目ではなかった。しかし、「照明が暗い」または「照明がまぶしい」と回答している人で、眼精疲労・目の乾きを訴える割合は高く*1、眼を使う作業が多い職場では、やはり課題となろう。匂いについては、デスクワークが中心と思われる事務系専門職(市場調査、財務、秘書等)と、オフィス外での作業が多いと思われる運輸、通信職で高い。所定労働時間が長い人で高くなっていた。今回は匂いの内容は尋ねていないため、詳細はわからないが、オフィスの内外で発生しうると思われる。

*1:照明が暗い」または「照明がまぶしい」と回答している人で、眼精疲労・目の乾きを訴える割合は、それぞれ28.8%、29.3%で、全体の8.0%を大幅に上回る。

デスクや椅子のサイズ・オフィス内のレイアウト

デスクや椅子のサイズがあわない」は、生産、技能職と運輸、通信職、および座位時間が3時間未満で低かった。デスク仕事の時間が、参照対象とした一般事務等事務職と比べて短いことによると考えられる。一般事務等事務職や座位時間が長いと、「デスクや椅子のサイズ」等の問題が生じると考えられる。また、「他の従業員との距離や近すぎる等レイアウトに問題を感じる」は、販売職、生産、技能職で低かった。参照対象とした一般事務等事務職では、自分の席が決まっていることが多く、問題が生じる可能性が考えられる。

従業員の健康増進についての取り組み

まず、「勤務先は、「従業員の健康増進」についての取り組みが熱心な方である」に対して、あてはまるほど、「冬、職場が寒い」「 夏、職場が暑い」「換気が悪い」「電話や人の声がうるさい」「機械類の音がうるさい」「匂い(汗、香水、タバコ臭、下水等)が気になる」「デスクや椅子のサイズがあわない」といった、作業環境としてよくない内容の負担を軽減する傾向があった。企業が、こういった作業環境の充実を、従業員の健康増進を意識して行っているかどうかはわからないが、今回の結果から、従業員は、会社の健康増進に関する取り組みと関連付けてとらえている可能性が考えられた。

3.おわりに

今回の調査では、50人以上の事業場に義務付けられているストレスチェックに推奨されている「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」を実施している。今回使用した「職場の作業環境(騒音、照明、温度、換気など)はよくない」という質問は、「非常にたくさんの仕事をしなければならない」や「高度の知識や技術が必要なむずかしい仕事だ」「職場の仕事の方針に自分の意見を反映できる」などのストレス要因となる仕事の負担項目の1つとして尋ねている質問である。本稿では、このうち、「職場の作業環境(騒音、照明、温度、換気など)はよくない」と回答した人に対して、よくないと感じている内容を尋ねていることから、今回の結果は、日常的に職場で感じている不満にとどまらず、自分の仕事を遂行する上で影響があるものを回答していると考える。

前稿「職場における温度、匂い、音等の問題」でも紹介したとおり、作業環境の負担は、高ストレスに関連しており、従業員の健康維持のためにも、従業員の作業効率を上げるためにも、作業環境の改善は必要だと考えられる。また、今回の結果から、従業員は、会社の健康増進に関する取り組みと関連付けてとらえている可能性が考えられたことから、作業環境の改善は、従業員に対して、従業員の健康を維持・増進し、作業効率を上げようとするメッセージとなり得る。

作業環境としてよくない内容として上位にあがった、温度の問題、換気の問題、人の声や機械類の騒音など音の問題は、個々の職場環境に大きく依存すると思われるが、職種や職場にいる時間などにも影響されるほか、性、年齢による傾向もあり得ると考えられた。それぞれの職場の課題や職種による課題の解消も重要であるが、人によって感じ方は異なるため、在宅勤務を活用する等作業場所に自由度を与えること、静かに集中できる場所の確保、室温が整った休憩場所の確保、十分な休養等、検討していくことが重要だろう。

Appendix(分析内容・結果の詳細)

1|使用したデータ・変数と分析方法

分析には、ニッセイ基礎研究所が2024年3月に実施した「被用者の働き方と健康に関する調査*2」の結果を使った。

まず、「職場の作業環境(騒音、照明、温度、換気など)はよくない」について「そうだ」「まあそうだ」「ややちがう」「ちがう」の回答にそれぞれ4~1点を配点し、これを被説明変数、性、年齢、所定労働時間、職種(管理職・マネジメント/事務職(一般事務、コールセンター、受付等)/事務系専門職(市場調査、財務、秘書等)/技術系専門職(研究開発、設計、SE等)/医療福祉、教育関係の専門職/営業職/販売職/生産、技能職/接客サービス職/運輸、通信職/その他)、1日の平均座位時間(3時間未満/3~5時間未満/5~8時間未満/8~10時間未満/10時間以上)、在宅勤務利用頻度(まったくしていない/月に1~3回程度/週に1日程度/週に2日程度/週に3日程度以上(もしくはほぼ毎日))、「勤務先は、「従業員の健康増進」についての取り組みが熱心な方である」への回答(「あてはまる」「ややあてはまる」「どちらとも言えない」「あまりあてはまらない」「あてはまらない」に対して1~5点を配点)を説明変数として、重回帰モデルで分析した。

次いで、よくないと感じている具体的な内容について、それぞれに当てはまるかどうかを被説明変数として、上記と同じ説明変数を使って線形確率モデルで分析した。いずれも、本人年収(300万円未満/300~700万円未満/700~1,000万円未満/1,000~1,500万円未満/1,500万円以上/収入はない/わからない・答えたくない)と居住都道府県を調整した。

*2:本調査は、全国の18~64歳の被用者(公務員もしくは会社に雇用されている人)の男女を対象とするインターネット調査で、全国6地区、性別、年齢階層別(10歳ごと)の分布を、2020年の国勢調査の分布に合わせて回収している。調査は毎年3月に実施しており、回収数は5,725だった。

2|回帰結果

回帰結果を図表2に示す。まず、よくないと感じている人の特徴として、有意な変数の回帰係数について順にみていくと、年齢が若いこと、職種としては、一般事務等事務職と比べて生産・技能職、接客サービス、所定労働時間*3が長いこと、座位時間*4は、5~8時間の人と比べて3時間未満であること、在宅勤務利用頻度*5は、まったくしていない人と比べて月1~3回程度、または週1日程度であることで高く、在宅勤務利用日数が週3日程度以上(もしくはほぼ毎日)である人で低かった。

よくないと感じているそれぞれの内容についても、有意な変数の回帰係数をみると、性別では、女性で「夏、職場が寒い」「匂い(汗、香水、タバコ臭、下水等)が気になる」が高い。年齢では、年齢が高いほど「冬、職場が寒い」「夏、職場が暑い」「換気が悪い」が高く、年齢が低いほど「冬、職場が暑い」「照明がまぶしい」「匂い(汗、香水、タバコ臭、下水等)が気になる」が高い。職種では、一般事務等事務職と比べて、市場調査、財務、秘書等事務系専門職で「電話や人の声がうるさい」「匂い(汗、香水、タバコ臭、下水等)が気になる」が高い。また、医療福祉、教育関係の専門職、営業職、販売職で「冬、職場が暑い」が低い。販売職では、「他の従業員との距離や近すぎる等レイアウトに問題を感じる」が低い。生産・技能職で「冬、職場が寒い」「夏、職場が暑い」「換気が悪い」「照明が暗い」「機械類の音がうるさい」が高く、「電話や人の声がうるさい」「デスクや椅子のサイズがあわない」「他の従業員との距離や近すぎる等レイアウトに問題を感じる」が低い。運輸、通信職では、「冬、職場が寒い」「匂い(汗、香水、タバコ臭、下水等)が気になる」が高く、「照明がまぶしい」「デスクや椅子のサイズがあわない」が低い。その他で、「冬、職場が寒い」「夏、職場が暑い」「照明が暗い」「匂い(汗、香水、タバコ臭、下水等)が気になる」が高い。所定労働時間が長くなるほど、「冬、職場が寒い」「夏、職場が暑い」「換気が悪い」「匂い(汗、香水、タバコ臭、下水等)が気になる」が高い。座位時間をみると、3時間未満で5~8時間の人と比べて「冬、職場が寒い」「夏、職場が暑い」「機械類の音がうるさい」が高く、「デスクや椅子のサイズがあわない」が低い。8~10時間の人で「冬、職場が暑い」が、10時間以上の人で「電話や人の声がうるさい」が高い。在宅勤務頻度では、在宅勤務をまったくやっていない人と比べて、月1~3回程度、または週1日程度で「冬、職場が暑い」「照明が暗い」が高い。一方、週2日以上(週2日程度と、週3日程度以上(もしくはほぼ毎日))の人で「夏、職場が暑い」が低い。また、週3日程度以上(もしくはほぼ毎日)の人で「冬、職場が寒い」「夏、職場が暑い」「換気が悪い」「電話や人の声がうるさい」「機械類の音がうるさい」が低い。

なお、「勤務先は、「従業員の健康増進」についての取り組みが熱心な方である」にあてはまるほど、「冬、職場が寒い」「夏、職場が暑い」「換気が悪い」「電話や人の声がうるさい」「機械類の音がうるさい」「匂い(汗、香水、タバコ臭、下水等)が気になる」「デスクや椅子のサイズがあわない」が低い。

*3:対象者全体では、今回の調査で7時間未満が約3%、7~8時間が約77%、8時間超が約20%だった。

*4:1日の座位時間は、3時間未満が16.4%、3~5時間未満が21.4%、5~8時間未満が29.6%、8~10時間未満が16.1%、10時間以上が16.5%だった。

*5:在宅勤務頻度は、「まったくしていない」が73.4%、「月に1~3回程度」が4.9%、「週に1日程度」が5.7%、「週に2日程度」が6.2%、「週に3日程度」が 3.2%、「週に4日程度」が2.1%、「毎日(もしくはほぼ毎日)」が4.5%だった。

(写真はイメージです/PIXTA)

(出典 news.nicovideo.jp)

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