【社会】パチンコ業界への天下りは非公式に続いている…ギャンブルを黙認し続ける”警察幹部のあり得ない見解”
【社会】パチンコ業界への天下りは非公式に続いている…ギャンブルを黙認し続ける”警察幹部のあり得ない見解”
※本稿は、鮎川潤『腐敗する「法の番人」 警察、検察、法務省、裁判所の正義を問う』(平凡社新書)の一部を再編集したものです。
■定年後の警察官僚には「三つの道」がある
日本の警察は二重構造になっている。警察庁という国家公務員の総合職の試験に合格した数百人のキャリア官僚と、各都道府県の警察本部に所属する約26万人の警察官が存在する。各都道府県の警察本部長、主要な都道府県警察本部の刑事部長、公安部長などの地位は、警察庁からキャリアが派遣されて、ほぼ独占している。
しばしば指摘されるように、警察官の採用試験に合格した巡査は幸運であれば、ごく少数のエリートとして警視、警視正になり署長で定年を迎える。一般的には、巡査部長、警部補で定年退職を迎える者が多い。都道府県警の警察官として採用された場合であっても、警視正以上の地位に就いた場合は国家公務員となり、給与は国から出される。
こうしたたたき上げの警察官に対して、キャリア官僚は都道府県警察本部の要職と警察庁とを往復しながら、地位を昇っていく。採用されて2年で警部、警視正を経て、20余年で警視長ののち、警視監で定年を迎える者も多い。キャリアは、警察の関連団体、一流企業や金融機関に天下る。かつて、警察庁長官ののちに政界に進み、官房長官、法務大臣などを歴任した後藤田正晴は次のように述べている。
警察庁長官を終えた直後に、政権の内閣副官房長官を務め、2年も過ぎないうちに政権党の代議士として立候補する。しかし、このことが、警察法が規定している「不偏不党かつ公平中正を旨とし」(第二条二項)という不偏不党性及び公正中立性に抵触しないと断言できるのか……。
■「パチンコの換金は知らない」と答弁する警察官僚
しかし、その人物でさえも天下りは「後輩に面倒をかける」という理由で、退職後の進路のなかで最もしたくないものとしている。だが、天下りは当たり前のように行われている。
天下りにあたっては、現在の年収と同等またはそれ以上の収入が与えられることが前提とされているように言われている。公社、公団ならずとも、所管の法人や関係諸団体に天下ることの意味するところは、出身官庁のコネを利用して、所属団体に有利な便益を取り計らってくれることが天下り先からは暗黙裏に期待されているということだ。
今では、退職の直後に関連企業に天下ったり、役所が天下り先を直接斡旋(あっせん)することは禁止されたが、その網の目をかいくぐって、規則に違反しない方法で行われている。
朝日新聞に、次のような記事が掲載された。
日本オリジナルの大衆娯楽・パチンコに換金行為はあるのか、ないのか。そんな議論が今、政治の世界で熱く交わされている。
◆官僚答弁に議員うんざり
「パチンコで換金が行われているなど、まったく存じあげないことでございまして」と警察庁の担当官。「建前論はやめましょう」。うんざり顔の議員ら。(2014年8月26日)
この警察庁の担当者の答えは、現在に至るも変更されることのない警察庁のパチンコについての公式回答である。
■出玉が換金されていることは誰でも知っているが…
この記事の続きには、「しかしパチンコの出玉が換金されることを知らない日本人は少ないだろう」と書かれている。いや、それどころではない。ほとんどの日本人は、パチンコの玉やパチスロのメダルが換金されることを知っている。
パチンコ店にパチンコやパチスロをしに行くほとんどすべての人は、ギャンブルであることを認識しており、金銭の獲得を狙って打ちに行っている。このことは、パチンコとパチスロなどの機械の製作メーカー、ホール経営者、さらにパチンコ・パチスロ――以降、特に区別する必要がない場合は「パチンコ」と記載する――に関連した最も包括的な団体である日本遊技関連事業協会(日遊協)でさえも認めていることなのである。
すなわち、『日遊協の30年 パチンコ・パチスロ産業の豊かな未来へ』(日遊協30周年事業委員会編、日本遊技関連事業協会、2019年)には、2002年当時の状況として、「ホールでの状況が射幸(しゃこう)性にますます傾き、事態を悪化させてしまった」とし、「パチスロについてネット上に「5万枚(100万円相当賞品分)出た」「6万5千枚(同130万円相当)のケースもあった」など信じられないような情報も飛び交った」(136頁)と記述している。
■パチンコ台の許認可団体は警察の天下り先
100万円相当の賞品分、同130万円相当という表現は、まさにパチスロの賞品が換金されていること、換金して金銭を獲得することが目的で行われていることを自ら認めている記述だと言ってよい。業界が、自ら換金されていることを暗に認めているのに、いったいどうして警察が「パチンコで換金が行われているなど、まったく存じあげないこと」などという認識を持ったり、発言をしたりするのであろうか。
パチンコの機械に課される基準は数年ごとに改定され、その基準に合った機械しか店舗に設置することができない。その機械を許可するのが、「一般社団法人保安通信協会(保通協)」である。以前、許認可団体が一団体のみというのは好ましくないということで別団体が組織されようとしたが、組織形態に問題があって認可されなかった。
その後、追加で一団体が組織されたようにも聞くが、いずれにしても保通協がほぼ独占的に、パチンコとパチスロの認可を行っていることには変わりない。この団体には警察庁の幹部が天下っている。
■関連団体の要職は警察官僚OBで占められている
最も有名なのは、警察庁長官を務めた山本鎮彦で、2005年まで17年間にわたって理事長を務めた。山本が辞職した年の7月の保通協の理事は15人いた。そのうち有給は常勤の4人で、いずれも警察の元キャリアであり、吉野準会長は警視総監、都甲洋史専務理事は警察庁情報通信局長、柳澤昊常務理事は福岡県警本部長、北村隆則常務理事は東京都警察通信部長であった(溝口敦『パチンコ「30兆円の闇」』小学館、2005年、156~158頁参照)。
パチンコ関連団体の実質的な要職は、エリート警察官僚のOBによって占められ、保通協だけでなく、パチンコ機械メーカーの団体である日本遊技機工業組合(日工組)、パチンコのホール業者で構成する全日本遊技事業協同組合連合会(全日遊連)、パチスロ(回胴式遊技機)機械メーカーの団体である日本電動式遊技機工業協同組合(日電協)、さらにホール、パチンコ機械メーカー、景品問屋、上述した日遊協などの団体の歴代専務理事と事務局長のほとんどは、警察のOBが担っている。
これらの団体の専務理事を除く理事は、パチンコ機械メーカーの社長、パチンコホールの社長、パチンコ等関連企業の経営者たちだが、ほとんどが非常勤の理事に留まっている。
警察が「パチンコで換金が行われているなど、まったく存じあげないこと」と公言するのであれば、これらの団体に天下ることは何ら問題のないこととして、大手を振って正々堂々と行えばいいと考えられる。しかし、定年退職後にこれらの職場に勤務するにあたっても、あるいはこれらの職場を実質的に紹介されて再就職するにあたっても、公表を躊躇するような雰囲気がうかがわれなくはない。
■天下り先を隠蔽するための工夫
従来は、これらの団体に定年退職後すぐに就職していたように思われる。しかし現在は、国家公務員で一度でも管理職を経験した一定の地位以上の職の者が天下った場合、その新たな職場を公表する必要が生じている。そのため最初の天下り先としては保険会社などと表示し、数カ月後や数年後にパチンコ関連団体に就職するという小技を用いるようになった。
あるいは、パチンコメーカーの団体であっても、組織団体名に併せて表記される再就職先の業務内容の欄には、「打球遊戯機製造業に関する指導調査、調査研究等」や「保安電子通信技術に関する業務」というようにその団体の性格が記され、パチンコ業界に関心を持つ者でなければ、再就職したのがまさかパチンコ業界だとは分からないように工夫がされているようである。
■関連団体の幹部はほとんどが警察OB
警察のパチンコ業界への関与については、パチスロの認可の歴史に顕著に表れている。一台当たりの利用金額がパチンコよりも多いパチスロは、1980年に東京都公安委員会が、81年に大阪府公安委員会が風俗営業の許可を出した。パチスロのメーカーは日本電動式遊技機工業協同組合(日電協)という団体をつくって、風俗営業の許可を得る働きかけをしており、その団体の幹部は警察庁や警視庁のOBで占められていた。
専務理事 元山形県警本部長、警察大学校交通教養部長・柿内正憲
事務局長 元関東管区警察局外事課長・田所修
事務局次長 元警視庁王子署長・伊藤正泰
技術部長 元四国管区警察局通信部長・石川郁夫
大阪事務所長 元近畿管区警察局通信庶務課長・宮川崎治
そして顧問が、元警察庁長官で、現中曽根内閣の官房長官・後藤田正晴(入閣時点で顧問を辞任)。
(読売新聞大阪社会部『警官汚職』角川書店、1984年、255~256頁)
この本には、さらに次のことが記されている。
■偽造カードが横行し約700億円が“裏の世界”に流出
1995年、警察庁はパチンコにプリペイドカードの導入を図った。現金商売で、収入や支出が捕捉できないパチンコホールの収支を把握することを目的としていた。パチンコ店の収入が海外に流出しているのではないかと考えられ、それを防止するという意図があった。
しかし、その過程で、警察庁は二つの誤りを犯した。
第一は、導入の立役者の警察キャリアがその誤りを認めているように、犯罪を取り締まるはずのカードが犯罪の温床となり、700億円近い金が闇の世界へと流れたとされる。つまり偽造が容易なカードを導入し、偽造カードが出回ったということである。偽造カードの使用は、パチンコ店にとっては、懐は痛まず、むしろ売り上げを伸ばすだけである。カードによって利用された料金はカード会社に請求しさえすればいい。規制するためのカードの導入がかえって、巨額の犯罪を生むことになった。
警察庁の音頭取りでカード会社の設立に参加した三菱商事は、多額の損失金を計上して撤退した。カード会社は統廃合され、別の業者が運営して、現在に至っている。
■ギャンブル性が高すぎた「四号機」
第二に、カードの導入において、導入されるカード読み取り機の費用負担の問題が生じた。カード読み取り機能を持った機種――CR機と呼ばれる――を導入させるにあたって、高額となるその機種の費用をパチンコホールが捻出できるようにするために、現金機ではなく、カード読み取り機能を持ったCR機の当たりの確率を高めることが黙過(もっか)された。
一攫千金の大当たりを狙って多額の金を注ぎ込む客を引きつけた。CR機の導入は1992年頃に始まったが、97年にCR機として射幸性の高いパチスロ四号機が導入された。その際、CR機すなわちプリペイドカード仕様のパチスロ機を普及させるために、CR機の当たりの額を高く設定し、連続して多額のコインが出るように設定したパチスロ四号機が保安通信協会(保通協)の検査を通ったと言われている。
CR機の利用者は、数万円の投資で20万円程度を儲けることは珍しくなく、一日で100万円も儲かることがあったと言われている。だが、あまりにギャンブル性が高かったため、撤去することになった。2007年9月にようやく四号機の撤去が完了した。
この間、2002年には、最大手のパチスロメーカーの一つであるアルゼ――現在、ユニバーサルエンターテインメント――に、警視総監であった前田健治が顧問として就任している。2004年には、同じくアルゼに元中国管区警察局長であり国会議員の阿南一成が特別顧問として迎えられ、その後、時を経ずして社長になった。
ただし、一年四カ月足らずにして、耐震偽装問題へ関与したとされたことから辞任するに至った。
■親がパチンコに熱中し、子供の「置き去り死」が相次ぐ
高額に換金できるコインが一挙に獲得できるパチスロのCR機に魅了された客が、自分の子どもをパチンコ・パチスロ店の駐車場の車中に置き去りにし、子どもが熱中症で死亡するという事件が相次いだ。
パチンコ店の駐車場での置き去りによる子どもの死亡者数は、3人(1998年)、6人(1999年)、5人(2000年)、4人(2001年)であった。その後、2008年から18年までの11年間では8人いたとされている。
パチスロのCR機が射幸性が高いと批判され、パチンコ店の駐車場で車内に置き去りにされた子どもの死亡が社会問題化しているなかで、なぜ元警視総監がパチスロメーカーの最大手の一つに天下ったのか理解しがたい。なお批判を受けてパチンコ店が、駐車場のパトロールを行うようになり、それに伴って死亡する幼児は減少したと言われている。
しかし、パチンコ店駐車場の車のなかに子どもを置きにくくなった客は、自宅へ子どもを置き去りにしてパチンコをするようになった。これは、現在も続いている。たとえば2023年10月、名古屋市で1日12時間、4日間連続で3歳と5歳の娘を自宅マンションに置き去りにしてパチスロをしていた父親が、保護責任者遺棄の容疑で逮捕された(「幼児2人を放置 容疑の父親逮捕 名古屋、パチスロ目的」読売新聞、2023年10月5日)。
■警察OBに支えられるは今後どうなるのか
後発であるにもかかわらず、パチスロは2017年には台数シェアで37%に成長し、売り上げシェアでは47%を占め、粗利でも44%を占めている。台の入れ替え時には、2010年からパチンコからパチスロへの移行が継続している(『DK-sis白書 2018年版』ダイコク電機株式会社、2018年)。警察庁の保安課長は、パチスロについて、当初、認可することになるとは考えていなかったという。
後藤田正晴が「ミスター警視庁といわれた大変りっぱな人」(前掲『警官汚職』、285頁)と呼んだ元警察官僚たちによって認可に至り、その後、警察庁の保安部、生活安全局及び警察OBによって支えられているパチスロとパチンコは、IR(統合型リゾート)の開設ともからんで、今後どのような展開を見せ、人々の生活にどのような影響を与えるのだろうか。
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関西学院大学名誉教授
1952年愛知県生まれ。東京大学卒業。大阪大学大学院修士課程修了。専門は犯罪学、刑事政策、社会問題研究。南イリノイ大学フルブライト研究員、スウェーデン国立犯罪防止委員会、ケンブリッジ大学等の客員研究員、中国人民大学等への派遣教授、法務省法務総合研究所研究評価検討委員会委員等を務めた。博士(人間科学)。保護司。著書に『新版 少年犯罪 18歳、19歳をどう扱うべきか』(平凡社新書)、『幸福な離婚 家庭裁判所の調停現場から』(中公新書ラクレ)、『腐敗する「法の番人」 警察、検察、法務省、裁判所の正義を問う』(平凡社新書)などがある。
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