【社会】「EVは燃える」は本当か 知っておきたい車両火災の危険性 消防署の対応は?
【社会】「EVは燃える」は本当か 知っておきたい車両火災の危険性 消防署の対応は?
EVの火災リスク
自動車が焼損してしまう車両火災のニュース報道はたびたび目にするが、電気自動車(EV)の存在感が高まる昨今、その安全上の懸念に注目が集まっている。
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読者の多くは「EVは燃えやすい」とか「消火が難しい」といった意見を目にしたことがあるだろう。実際にはどれくらいの頻度で火災が発生しているのか、また一度出火するとどうなってしまうのか。
ここでは、海外の統計や消防当局の対応策を中心に、EV火災の危険性について紹介したい。
海外の統計
筆者(英国人)の住む英国を例に、EV火災の統計から紹介しよう。結論から申し上げると、EV火災の発生頻度はそれほど高いものではない。
航空宇宙関連機器メーカーのハネウェル社の調査によると、2022年7月から2023年6月までに英国で記録されたEV関連の火災は239件とされる。これは対前年比で83%の増加だが、背景にはEV保有台数が増加していることが挙げられる。
一方、ベッドフォードシャー消防救助局によると、2019年の車両火災発生件数はガソリン車とディーゼル車が1898件、EVが54件だった。
別の国のデータも見てみよう。スウェーデンの民間緊急事態庁(MSB)による調査では、EVはエンジン車よりも20倍出火しにくいとされている。
また、同庁と米国の保険会社による追加調査では、10万台のEVのうち火災による被害を受けたのは25台のみとされた。これに対し、エンジン車は10万台中1530台、ハイブリッド車は10万台中3475台と、はるかに高い確率で火災に見舞われている。
EV火災が注目されるのには多くの理由がある。そもそもEV自体が目新しい存在で、ニュースに取り上げられやすい。火災の様子もショッキングなもので、多くの場合「ヒュー」という音とともに毒性の強い蒸気が発生し、激しく爆発することもある。
そして、一度出火すると信じられないほど消火が難しい。鎮火したと思っても、数時間後、数日後、あるいは数週間後に再び火の手が上がる。ただ単に水をかけるだけではなかなか火が消えず、消火後もしばらく潜在的なリスクが残るのだ。
このようなことから、EV火災を心配する人が増えるのも無理はないだろう。
消防当局の対応
では万が一、EV火災に見舞われたらどうなるのだろうか。EVがある程度普及している国や地域の消防当局は、さまざまな対応策をとっている。
例えばベッドフォードシャー消防救助局は、EV絡みの事故や火災が発生した場合、「消防車の1台が回収車両を追って消防署の荷降ろし場まで戻り、対応を支援する」と発表している。つまり、回収したEVから出火する可能性を考慮して、回収車両(レッカー車やトラック)に消防車が随伴するというのだ。
また、事故に巻き込まれたEVの車種と、そのバッテリーと絶縁スイッチの場所を消防隊員が特定できるシステムを開発したという。
EV火災に対処する最善の方法については専門家の間でも意見が分かれているが、一般的には、大量の水でバッテリーを冷却する(ただし再出火を完全に防ぐことはできない)、防火ブランケットを使用する、有毒な蒸気から消防隊員を守る呼吸装置を用意するといった方法がある。あるいは、EVがただ燃え尽きるのを待つかだ。
不活性ガスで消火しようとしても、化学的な炎であるため空気中の酸素を必要とせず、効果は薄い。また、爆発や事故時の衝撃によってバッテリーから飛び出したセル(電力を蓄える部品)が自然発火する可能性もあるため、現場の周囲をよく点検する必要がある。
消火後の車両や部品はすべて撤去し、建物や他の車両から離れた場所に保管しなければならない。一例を挙げると、スクラップヤード火災の約25%は使用済みリチウムイオンバッテリーが原因とされている。なお、塩素ガスが発生する可能性があるため海水は使用できないが、車両や部品を水に浸しておくことも対応策の1つだ。
デンマークの首都コペンハーゲンの消防当局は、EV火災における独特の対応策を打ち出している。焼損したEVや出火のおそれのあるEVをコンテナに封印し、平台のトラックに載せて保管するというものだ。
コンテナ内部のノズルから水を注入し、危険性が排除されるまで安全な保管場所に置かれる。場合によっては数週間、監視のもと保管される。その後、使用した水はろ過され、処理した上で廃棄される。
EVは「危険」なのか?
このような火災のリスクは、消費者心理的にもEV購入の障壁になりそうだ。英ニューカッスル大学の純粋応用電気化学の教授で、全英消防署長協議会の上級顧問でもあるポール・クリステンセン氏は、EVに対する安全上の懸念を払拭しようと取り組んでいる。
「日産自動車のバッテリー工場建設をサポートした身として、余裕があれば明日にでもリーフを購入したい。EV火災は発生件数が少ないので心配はいりませんが、注意は必要です」
「リチウムイオンバッテリーは、非常に小さなスペースに大量のエネルギーを蓄えています。2008年以降、バッテリーはそのリスクに対する我々の理解を上回る勢いで普及しています。我々は遅れを取り戻そうと努力しており、必ず追いつくことができるでしょう」
クリステンセン氏は消防隊員や初期対応者の理解を深めるために、これまで英国、欧州、オーストラリア、ニュージーランドの消防当局で講演を行ってきた。講演ではまず、リチウムイオンバッテリーのセル構造の説明から始めるという。
セルの中には、混合金属酸化物でコーティングされた正極(カソード)と呼ばれるアルミニウムの薄片がある。これと対になるような形で、グラファイトでコーティングされた銅の負極(アノード)が配置されている。両者の間には、有機溶媒に浸されたプラスチック製のセパレータがあり、そこに少量の「添加物」が含まれているのだが、その正体はバッテリーメーカーにしか分からない。
バッテリーの充電・放電に応じて、リチウムイオンが正極と負極の間を移動する。
満タンのセルには4.2Vの電圧があるが、意外なことに空の状態でも2.5Vの電圧が残っている。日産リーフは約192個のセルからなる24個のモジュールを搭載し、テスラ・モデルSでは7000個以上のセルからなる16個のモジュールを搭載している。たとえ車載スクリーンに「残量0%」と表示されていても、実際にはかなりのエネルギーを保持しているのだ。
これが「熱暴走」につながると考える科学者もいる。熱暴走とは、発熱により水素や酸素といった可燃性ガスが発生し、セルの破損が連鎖してしまう現象だ。この時、有毒な蒸気が発生し、爆発する危険性もある。一度熱暴走が始まると、車載のバッテリー管理システムやサーキットブレーカーでは止めることができない。
「バッテリーの発火を抑えることはできても、消すことはできません」とクリステンセン氏は言う。
クリステンセン氏は、衝突事故などでバッテリーに穴が開くと発火するということを実験で実証し、「バッテリーケースが凹んでいたら危険」と注意を促している。
広範囲に対策を
破損以外にも、外部から高温にさらされたり、充電時に過熱したりすることでも火災につながってしまう。さらに懸念されるのは自然発火で、製造時に不良品のセルが1つでも混入すると出火のリスクがある。
「どんなに経験豊富で注意深いメーカーが品質管理に細心の注意を払っていても、欠陥のあるバッテリーセルは出ます」
バッテリーの炎はガスバーナーのようなもので、周囲にも燃え移りやすい。そのためクリステンセン氏は、多くの車両が並ぶ立体駐車場やバス車庫などにおけるEVの安全性を考慮するよう求めている。
「ドイツでは、半年あまりの間に3つのバス車庫が炎上したことがあります。トンネル、フェリー、駐車場、貨物船など、EVを見かける場所はすべて安全上のリスクがあると考え、適切な措置を講じる必要があります」
また、近年クラシックカーなどの既存車両をEVに改造するというレストモッドが人気を集めているが、コストを抑えるために中古のバッテリーが使われるケースも少なくない。
「中古のリチウムイオンバッテリーの安全性は誰にもわかりませんし、グローバルな試験基準もまだ考案されていません」
「解体工場で違法に取り外され、再び市場に流通する粗悪なバッテリーもあります。リチウムイオンバッテリーの安全性については多くの研究が行われていますが、全員で協力する必要があります。今はまだ、学習の途中段階にあるのですから」
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