【社会】「第三次世界大戦は起こらない」と思っちゃいけない…“重大リスク”を軽視してしまう人の共通点
【社会】「第三次世界大戦は起こらない」と思っちゃいけない…“重大リスク”を軽視してしまう人の共通点
「全面戦争は決して起こらない」――以前からロシアとウクライナの衝突が指摘されていたにもかかわらず、こうした楽観論が有識者からも出ていたのはなぜなのか……? ここでは人間が重大リスクを見落としてしまう理由を、関西大学教授の藤田政博氏の新刊『リーダーのための【最新】認知バイアスの科学 その意思決定、本当に大丈夫ですか?』(秀和システム)より一部抜粋してお届けする。
(全2回の1回目/後編を読む)
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なぜ「ロシアは攻めてこない」と思っていたのか?
2022年2月、ロシアによるウクライナ侵攻が始まり、2024年5月現在も続いています。
これは、突如として始まったわけではありません。欧米各国から「ロシアがウクライナに攻め込んでくる」と指摘されていたのです。ですが、その一方で、「全面戦争は決して起こらない」と考えていた有識者も多数いました。
当時のニュース番組では、現地のジャーナリストにマイクを向けられたウクライナ兵たちが「(ロシアとの戦争は)デマだ、信じるな」などと楽観的な返答をしている場面が流れていました。もしかすると、これ自体情報工作だったのかもしれませんが、現実にロシアが侵攻を開始したのは、その直後のことでした。
このように正常性バイアスとは、緊急の場面で楽観的に判断をするバイアスです。このようなことが起こるのは戦争のときだけでなく、災害時にも正常性バイアスは発揮されます。
たとえば、大地震の後に大きな津波がやってくることがあります。
そういうときに、地域防災無線などで「津波が来ます。避難してください」と言われても、とくに自宅が倒壊しなかった方は「私は家でいつも通り生活しているし、まあ大丈夫だろう」と判断してしまうのです。
すると避難が遅れたり、あるいは避難しなかったりで津波に巻き込まれてしまう……こういうことが発生するのが正常性バイアスです。つまり「(災害時でも)今の自分がいる状況は普段と変わらない」と、実際以上に思い込んでしまうのです。
このようなことが知られるようになってきたため、2024年1月に発生した能登半島地震では、テレビで「津波! 逃げて!」とかなり激しく(大きな字幕で)避難を促す放送がおこなわれました。これに対し、一部で批判の声も上がりましたが、過去の事例から学んで、少しでも多くの人が避難するのに役立ったと思われます。
なぜロシアとの戦争は起こらないと考えるのか?
侵攻前の状況で言うと、実際にロシアはウクライナとの国境辺りに、大量に軍隊を送っていました。それでも「単なる脅し」と捉えられていたのです。
「ロシアがその軍隊を進めて全面戦争になったら、おそらくロシアにも重大な被害が出るだろうし、ほかの国もどんどん巻き込まれる可能性もある。第三次世界大戦に発展し、核攻撃という話にもなりかねないので、そこはやらないでしょう」と。
これこそ、まさに正常性バイアスです。なぜ、このバイアスが働くのかというと「自分が住んでいるこの世界は安定しており、その安定が続くのだ」と考えたほうが、精神的に安定して過ごせるからです。誰でも、第三次世界大戦になって核攻撃が始まり、地球滅亡……ということは考えたくないのです。
災害場面でも同じで「自分の住んでいる家が津波で流されてしまう」など、天変地異によって自分の生活基盤がなくなるということは起きないと考えたほうが、心理的に安定していられます。
つまり、論理的に考えられるかどうかという話ではなく、そう捉えたほうが精神的に安定できるからそのように考えるという話なのです。
裏を返せば、このバイアスに掛かるときは、すでに事態が深刻化しているときです。ビジネスで言えば、倒産直前に発揮された例があります。
1997年に山一證券が自主廃業を決めた際も、山一證券の従業員には直前まで「自分の会社が潰れる」とは思っていなかった人が多数いたという逸話が残っています。
当時、山一證券で働いていた方の手記を読んだことがあるのですが、テレビを点けたら自社の社長が泣いて謝りながら「社員は悪くありません!!」と絶叫していて、そこで初めて「うちの会社って潰れるんだ」とわかったと言います。
もちろん、大企業だった山一證券では、会社の情報を社員がマスコミを通じて初めて知るということもあったでしょう。
しかし、それを除いても、じつはそれまでに倒産の予兆はありました。前社長が逮捕されていたり、役員が銀行に支援を求めたり、どんどん人が辞めたりなど、倒産に至る兆候はあったのです。
しかし、それに気づかなかった人たちも多かったそうです。まさに正常性バイアスと考えられるでしょう。
正常性バイアスは「最強のバイアス」とも言えます。ウクライナ侵攻も、津波の被害も、山一證券の倒産もそうですが、気づいたときにはもう遅かったという事例がたくさんあります。
このバイアスへの対策はなかなか難しいのですが、次項とまとめてご提案しますので、対策については次項をご参照ください。
〈タイタニック見学ツアーで“乗組員5人すべてが死亡”…「数多くの問題が指摘されていた」のに経営者がそれを無視した理由とは?〉へ続く
(藤田 政博/Webオリジナル(外部転載))