保育園に入った子どもは何カ月後まで風邪を繰り返すか…途方に暮れる親に小児科医が伝える「3つの研究結果」
保育園に入った子どもは何カ月後まで風邪を繰り返すか…途方に暮れる親に小児科医が伝える「3つの研究結果」
保育園に入った子どもは何カ月後まで風邪を繰り返すか…途方に暮れる親に小児科医が伝える「3つの研究結果」 | ニコニコニュース
■保育園に入るとよく風邪をひくもの
新学期が始まりました。育休明けで保育園デビューなど集団生活を始めるお子さんをお持ちの保護者の方もいらっしゃると思います。今回は入園にあたり、知っておいていただきたいことをまとめました。
まず、保育園や幼稚園は子どもたちの集団生活の場です。これまで集団生活をしていなかったお子さんが入園すると、多くの病原体にさらされ、毎週のように風邪をもらってきて熱を出すお子さんも少なくありません。これから仕事を頑張ろうと思った矢先に、「熱が出たのでお迎えを」という園からの連絡が重なると、保護者も心が折れそうになるかもしれません。また、「自分の復職が早かったから子どもに負担をかけているのでは」と悩んだり、「こんなに何度も風邪をひくなんて、うちの子は免疫が弱い病気でもあるのだろうか」と心配になったりするかもしれません。でも、実はよくあることです。
次の図は年齢層別の1人当たりの呼吸器疾患の年間罹患数を示したものです(1)(図表1)。
このことから1~2歳のお子さんは年間5~6回は風邪をひいていることがお分かりいただけるかと思います。「よく風邪をひくのはうちの子だけ」ではないのです。ただし、3~4歳で4~5回/年、5~9歳で3~4回/年と、成長に従って風邪をひく回数は減っていきます。
■病欠日数は入園2カ月がピークという研究結果がある
そう言われても、保育園デビューしてから頻繁に熱を出すお子さんのケアをしながら、こういった状況がいつまで続くのか途方に暮れる方もいらっしゃるかもしれませんね。
ここで、1827名のお子さんを2年間フォローアップし、風邪症状や病欠日数と保育施設入所との関連を調べたフィンランドの研究をご紹介したいと思います。この研究では、月平均の病欠日数がピークとなったのは保育園入所2カ月の時点で、その後減少し、9カ月を過ぎるころには落ち着いたと報告しています(2)(図表2)。
われわれ小児科医の実感としても、おおむね入園後1年くらいすると風邪を繰り返すパターンも落ち着いて来る印象があり、この研究結果は納得できるものです。
■いつかは集団生活を経験しなければならない
もちろん、風邪をひかないに越したことはありません。つらそうなわが子の様子を見ると、風邪をひかせたくないという気持ちは十分理解できます。ただ、一方でこんなデータもあります。カナダの研究では、就学前(2歳半より前)にグループ保育を始めたこどもは、当初は気道感染症や中耳炎の発症頻度が上がるものの、小学校に入ってからの感染症罹患はむしろ下がることが報告されているのです(3)。このような研究があることを知り、就学前に風邪をひくことはデメリットばかりではないと分かれば、保護者の皆さんも少し安心できるかもしれませんね。
子どももいつかは集団生活を経験しないといけません。保育園や幼稚園に入園し、風邪をひくのは、必要な免疫をつけるための通過儀礼とも言えます。決して保護者の判断が悪かったとご自身を責める必要はありませんし、通っているうちに回数も減ってきますのでご安心いただければと思います。
■「いつもと違う」が体調不良に気づくヒント
外来診療中によく聞かれる質問で「入園後、体調を崩すことが増えたが、早めに子どもの体調不良に気づける方法はないですか?」というものがあります。確かに早めに気づけたら、それに越したことはありません。そう聞かれた時にお話しするのは「『いつもと違う』をキャッチするアンテナを磨くこと」とお話ししています。そのためには次のチェックリストを日頃から確認しておくといいと思います(4)。
□ 普段の平熱
□ 普段の食欲の程度
□ 普段起きているときの顔、唇の色
□ 手足のあたたかさ
□ 普段の便の回数、色
□ おもちゃやまわりへの興味
□ 泣き声の力強さ、泣き方 など
子どもの症状の重さを評価するには普段の様子とくらべることが必要なので、われわれ医師も「いつもと違うと感じるのはどういう点か?」を念頭に置いて質問します。ご家族がお子さんの普段の様子を把握し、その状態との違いを説明いただけると、正確な診察につながります。
■「早めに風邪薬を飲めば早く治る」わけではない
外来をやっていると、「今は軽い症状だけれど、悪くなる前に早めに風邪薬をもらいに来ました」とお話される保護者の方は多いです。早めに治るなら早めに受診させたくなるのは当然ですよね。子どもに早く楽になってほしいという願いは親の愛情でもあります。では、風邪薬は早めに内服するほど早く治るのでしょうか。
実は風邪のほとんど(9割以上)はウイルスが原因です。これらのウイルスを直接退治する薬は残念ながらありません。したがって風邪症状で受診された場合、処方される薬は去痰薬(痰を出しやすくする薬)や鎮咳薬(咳を抑える薬)などの感冒薬や解熱剤になります。これらはあくまで起こった症状の程度を緩和するものです。つまり早めに飲むほど早く効く(治る)わけではなく、今ある症状を(少しだけ)楽にしてくれる薬です。
本人がぐったりしていたり水分があまり摂れなかったりする場合には早めの受診をお勧めしますが、そうでなければ焦って病院に駆け込まなくても大丈夫です。熱が高いと頭に障害が残るのではと不安になる方もいらっしゃいますが、そのようなことはありませんのでご安心ください。まずはゆっくり体を休ませてあげてください。休んで体力が回復すると、風邪の治りも早くなります。
■咳は10日後でも半数の子どもに残っている
子どもの咳が長引いて心配、と相談される保護者の方も少なくありません。多くの方は1週間くらいで治るのでは、と思っていらっしゃるかもしれませんが、子どもの咳に関しては、10日後でも50%の子どもに残っており、2週間後でも25%に残っていたとの報告(5)もあります。子どものカゼは、治るまで10日以上かかることも珍しくないと知っていると、気持ちが少し楽になるかもしれませんね。
「前の日に熱が出ていたけど、翌日解熱している、よし登園できそう!」
そう思いたくなる気持ち、よく分かります。仕事だってできるだけ休みたくないですよね。ただ、ここで知っておいていただきたいのは、前日に熱が出ていた場合、翌朝熱が下がっていても一時的な可能性が高いという点です。治っていなくても朝はいったん解熱していることが少なくありません。園に行かせても、結局午後からまた発熱して再び呼び出し、という経験をお持ちの方も多いかと思います。それなら前日夜に熱があるときは翌日は休むと決めた方が、連日呼び出しというストレスも軽減でき、子どももしっかり休めて体力が回復し早く治りますのでお勧めです。
■小児科受診時の3つのおすすめポイント
最後に小児科を受診する際に知っておくとよいポイントを3つにまとめました。
1.なるべく早い時間帯に受診する
仕事があると日中のお子さんの様子を把握するタイミングが遅れがちです。とはいえ、夕方遅くの受診は、医療機関によっては十分な検査ができないケースもあります。ぐったりしていたり水分が摂れなかったり等なければ、病院の受診のタイミングは、できるだけご家族の都合ではなく子どもの症状にあわせて行っていただければと思います。
2.家庭や学校・保育施設の感染状況を伝える
家族にカゼなどの症状があったり、通っている保育園や幼稚園、学校ではやっている感染症があったりするときは、診察時にお伝えください。診断し治療方針を立てる上で大きな助けになります。
3.熱型表はおすすめです! 症状や体温は時系列で
赤ちゃんの様子を伝えるときは、体温や症状を時系列で伝えていただけると経過がよく分かり助かります。そんなとき助かるツールに「熱型表」があります。熱型表とは朝・昼・晩など定期的に体温を測ってグラフにしたものです。医師は、ご家族に問診して熱型表を思い浮かべながら診察するので、表で持参いただけると、診察時のコミュニケーションも円滑になり、診断の助けにもなります。ネットでもいろいろ見つけられるので、ぜひご活用ください。
■予防接種は早めにスケジュールを立てたほうがいい
日本では生まれてからほとんどのお子さんが定期接種を受けます。生後2カ月から始まるヒブや肺炎球菌、四種混合ワクチンの初回接種率(累積)はおおよそ97~98%と非常に高いです。ところが1歳を過ぎてから接種するこれらのワクチンの追加接種に関しては、ヒブや肺炎球菌の接種率は94%前後とまだ高いものの、4種混合の場合は86%と下がってしまいます。
また1歳で接種する水痘の1回目接種率は94%と高めですが、それから3カ月以上の間隔をあけて接種する2回目は70%と大きく下がっています(6)。その要因として、1歳を過ぎて復職などでバタバタする中で、接種の機会を逃してしまうケースがあると考えられています。そこで、あらかじめかかりつけ医でスケジュールを確認し、家族で分担して接種スケジュールを立てることをお勧めします。
日本小児科学会では、ワクチンについての情報を「知っておきたいわくちん情報」として分かりやすくまとめており、参考になります。
■病児保育の利用に罪悪感を持つ必要はない
病児保育を利用することに罪悪感をもたなくて大丈夫です。病児保育では、看護師や保育士などの専門家が、十分な感染対策を行いながら、その子に必要なケアと保育を行います。病児保育を利用することで、子どもの情緒や発達に悪い影響が及ぶことはありません。仕事を休まず病児保育を利用するのは愛情不足では、と罪悪感を抱く必要はありません。なお、病児保育登録は少し時間がかかることもあるので、体調を崩す前に事前準備として進めていただければと思います。
一方で、子どもの体調不良でも親が仕事を休めないという状況は、社会が抱える課題でもあります。子どもは社会で育てるものという認識が広がっていくことを、小児科医として切に願っています。
参考文献
1.Heikkinen T, Järvinen A. The common cold. Lancet. 2003;361(9351):51-9.
2.Schuez-Havupalo L, Toivonen L, Karppinen S, Kaljonen A, Peltola V. Daycare attendance and respiratory tract infections: a prospective birth cohort study. BMJ Open. 2017;7(9):e014635.
3.Côté SM, Petitclerc A, Raynault MF, Xu Q, Falissard B, Boivin M, et al. Short- and long-term risk of infections as a function of group child care attendance: an 8-year population-based study. Arch Pediatr Adolesc Med. 2010;164(12):1132-7.
4.坂本昌彦『赤ちゃん育児なんでもQ&A』赤ちゃんとママ社(2023年)
5.Thompson M, Vodicka TA, Blair PS, Buckley DI, Heneghan C, Hay AD. Duration of symptoms of respiratory tract infections in children: systematic review. Bmj. 2013;347:f7027.
6.国立感染症研究所. 累積予防接種率調査. 2018.
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佐久総合病院佐久医療センター・小児科医長兼国際保健医療科医長
2004年名古屋大学医学部卒業。2009年小児科専門医取得。2011年東日本大震災を機に福島県に移り、県立南会津病院にて勤務。南会津では「教えて!ドクター」の活動の原型となる出前講座や啓発パンフレット作成に関わった。2012年タイ・マヒドン大学熱帯医学部にて熱帯医学研修コース(DTM&H)修了。2013年ネパール・ラムジュン郡立病院小児科にて勤務。2014年より現職。専門は小児救急、国際保健(渡航医学)。2024年帝京大学大学院にて公衆衛生学博士取得。日本小児科学会専門医および指導医。日本小児救急医学会代議員、日本国際保健医療学会理事。2015年から保護者の啓発と救急外来の負担軽減を目的とした「教えて!ドクター」プロジェクト責任者。Yahoo!エキスパートオーサー。Yahoo!オーサーアワード2022最優秀賞受賞。Eテレ「すくすく子育て」「キッチン戦隊クックルン」医事監修担当。著書に『子どもを事故から守る本』(中外医学社)、『赤ちゃん育児なんでもQ&A』(赤ちゃんとママ社)など。
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