何かがおかしい…認知症だった母の逝去後、残った6,000万円の遺産。“母と不仲だった”弟に言われた信じられない一言

何かがおかしい…認知症だった母の逝去後、残った6,000万円の遺産。“母と不仲だった”弟に言われた信じられない一言

何かがおかしい…認知症だった母の逝去後、残った6,000万円の遺産。“母と不仲だった”弟に言われた「信じられない一言」【弁護士が解説】 | ニコニコニュース

被相続人が認知症を患っていた場合、遺言書に効力があるのか、ないのかという点について、問題になることはよくあります。日暮里中央法律会計事務所・三上貴規弁護士が、具体的な事例をもとに、被相続人が認知症であった場合の「遺言書」の効力について、詳しく解説します。

母の逝去後、遺産分割協議をするために弟を訪ねると……

純一さん(50代・仮名)は弟と二人兄弟です。父は既に他界しており、母は弟と同居していました。

この度、母も亡くなり、純一さんと弟の二人が相続人となりました。母には預金など合計6,000万円の遺産があったため、純一さんは弟との間で遺産分割協議をしようと考えました。

しかし、遺産分割協議をするために純一さんが弟のもとを訪ねたところ、信じられないことを言われてしまいます。

母さんが僕に全財産を相続させる遺言書を残していたから、兄さんが相続する財産はないよ」

そう言って、弟は純一さんに母の公正証書遺言を見せました。たしかに、母の公正証書遺言には、全財産を弟に相続させると記載されていました。

しかし、純一さんと母の関係は良好であり、一方、弟と母の関係は良好とは言い難いものであったため、母が全財産を弟に相続させる遺言書を残すだろうかと疑問に思いました。

また、遺言書が作成された当時、母は認知症であり要介護認定も受けていたため、そのような状態で行われた遺言は無効ではないかと思いました。母の遺言書に納得できないため、純一さんは弁護士に相談することにしました。

認知症だった母の遺言に効力はあるのか?

遺言を有効に行うためには、遺言能力が必要です。

遺言能力とは、遺言事項を具体的に決定し、その効果を理解するのに必要な能力などといわれます。遺言能力のない者がした遺言は無効となります(民法第3条の2)。

それでは、遺言時に認知症に罹患していた場合、当該遺言は無効となるのでしょうか?

結論から言うと、遺言者が認知症に罹患していたからといって直ちに遺言が無効となるわけではありません。認知症に罹患していた者が行った遺言であっても有効と判断されることがあります。

たしかに、遺言能力の有無を判断するにあたって、遺言者が罹患していた精神疾患の内容や重症度は重要な考慮要素となります。

しかし、それだけでなく、遺言の内容や作成された経緯、遺言者と相続人の関係性なども考慮されます。たとえば、遺言の内容が複雑で難解なものであれば、遺言者がその内容を十分に理解できていたのか疑問が生じ得ます。

また、遺言者と生前不仲であった者に財産を取得させる内容の遺言は、遺言者の真意が反映されたものではない可能性があるでしょう。

このように、遺言能力の有無は、医学的な要素のみから判断されるのではなく、その他の事情も考慮して総合的に判断されるのです。なお、遺言書が公正証書によって作成されている場合(公正証書遺言)であっても、遺言時に遺言能力がなければ無効となります。

公正証書遺言は遺言能力が認められやすいなどといわれることがありますが、公正証書遺言が無効と判断されるケースも少なくありません。

母の遺言の無効を主張するには

では、純一さんが母の遺言の無効を主張するにあたって、どのような資料を収集すべきでしょうか?

収集すべきものとして、まずは、母の認知症に関する資料が考えられます。

たとえば、母の診療記録、医師の診断書、検査結果などです。本ケースでは、母は要介護認定を受けていたため、その際の認定調査票や主治医意見書を取り寄せることも考えられます。

以上のような資料から、母の認知症の重症度などを検討することになります。また、医学的な資料以外についても収集する必要があります。

たとえば、母の生前の日記やメモ、親族の供述などが考えられます。メールや手紙などが、母と純一さんの関係が良好であったことや母と弟が不仲であったことを裏付ける資料となることもあるでしょう。

以上のような資料から、母が弟に全財産を相続させる遺言をすることに合理性があるのか、遺言書作成に弟が不当に関与したのではないかといった点を検討することになります。

遺言の無効を主張する手続としては、遺言無効確認調停の申立てや遺言無効確認請求訴訟の提起などが考えられます。

遺言が無効だと証明するのは必ずしも容易ではない

遺言能力の有無は、諸事情を総合的に考慮して、事案ごとに個別に判断されるため、明確な判断基準が存在するわけではありません。

また、遺言が無効であることの立証は必ずしも容易ではありません。したがって、最終的に遺言が有効であると判断される可能性も見据えて対応する必要があります。

本ケースでは、仮に母の遺言が有効であるとすれば、純一さんの遺留分が侵害されていることになります。遺留分とは、被相続人の財産から法律上取得することが保障されている最低限の取り分のことです。

遺留分を侵害された者は、侵害している者に対して、遺留分侵害額請求権を行使し、侵害額に相当する金銭の支払を求めることができます(民法第1046条第1項)。

そこで、純一さんが母の遺言の無効を主張するにあたっては、「仮に遺言が有効であったとしても」と留保を付した上で、弟に対して、遺留分侵害額請求を行うことも検討すべきです。

遺留分侵害額請求権には1年間という短い期間制限があるため(民法第1048条)、遺言の無効を主張するのと並行して遺留分侵害額請求権を行使しておかなければ、最終的に遺言が有効と判断された場合に、遺留分侵害額請求権を行使できなくなるおそれがあります。

以上のように、遺言の無効を主張する際には専門的な知識が必要となるため、専門家に相談することをおすすめします。

三上 貴規

日暮里中央法律会計事務所

弁護士

(※写真はイメージです/PIXTA)

(出典 news.nicovideo.jp)

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