ユーチューバーになるにも「文章を書く力」が必要…ハーバード大が150年以上も「作文教育」を続けている理由
ユーチューバーになるにも「文章を書く力」が必要…ハーバード大が150年以上も「作文教育」を続けている理由
ユーチューバーになるにも「文章を書く力」が必要…ハーバード大が150年以上も「作文教育」を続けている理由 | ニコニコニュース
※本稿は、ソン・スッキ著、岡崎暢子訳『作文宿題が30分で書ける! 秘密のハーバード作文』(CCCメディアハウス)の一部を再編集したものです。
■論理的思考力のある子は小4以降で頭角を現す
「ロボットは東大に入れるか?」。2011年、東京大学に入学できるほどの十分な学力を携えた人工知能ロボット「東ロボくん」が入学試験に挑みました。日本が生んだ人工知能(AI)のエキスパート、新井紀子教授がプロジェクトを指揮したユニークなこの挑戦。その結果はなんと、不合格! 以降、4回のリベンジもむなしく、結果はいずれも惨敗。ロボットの挑戦は2016年についに凍結となります。
「東ロボくん」が東大入試に失敗した理由として、新井教授は「読解力不足」を挙げています。「人工知能ロボットは、意味が理解できてこそ課題処理が可能である」というのが教授の導いた結論でした。加えて、「もし将来的に、人間が高度な読解力をベースとした判断ができなくなったときこそ、AI頼みになりかねない」と警鐘を鳴らし、子どものうちから読解力の育成に注力すべきだと強調しました。
読解力は、事実関係を正しく把握して論理的に導く力であり、ロジカル・シンキングという土台なしでは機能しない能力です。
小学4年生以降の勉強では、この論理的思考力が大きくモノを言います。論理的に考えて表現できる子どもは、そのくらいの年齢から学力で頭角を現し始めます。
さて、このあたりまで読み進めたみなさんは、そろそろ気になっているでしょうか? 「果たしてうちの子は論理的に物事を考えることができるだろうか?」「ロジカルな思考力を育てるにはどうすればいいのかしら?」と。
■ハーバード大学は150年以上前から作文教育にこだわってきた
韓国で10万部のロングセラーとなっている拙著『150年ハーバード式ライティングの秘密』。小学生向けの本書のベースとなっているものですが、私がこの前作を書いた動機は、ハーバード大学のライティング術が取り立てて珍しかったからではありません。むしろ私が着目したのは、ハーバード大学という世界的な名門大学が、150年以上も前から作文教育にこだわってきたことのほうでした。ハーバード大学の学生は在学中ずっとライティングを学びます。1~2年生のうちは、専攻や学年にかかわらず必修科目に組み込まれているほどです。
ハーバード大学がこれほどまでに作文教育にこだわるのは、学生たちを社会の各分野でリーダーとなる人材に育成しようという狙いがあるためです。つまり、ハーバード大学は、リーダーに欠かせない卓越した思考能力を育成する手段として、ライティングを選んでいるのです。
ハーバード大学に限らず、世界中の名だたる大学が作文教育に力を入れています。欧米先進国では、企業も、役員以下すべての従業員のライティング教育に投資を惜しみません。コロナ禍を経験して身に染みたように、予測もつかない出来事や社会的変化の中で企業が生き残るには、社員一丸となって革新的に考え、コミュニケーションし合うことが重要なのです。そしてその中心にあるのが論理的な思考力というわけです。思考力を育てるのに書くことほど適したものはないという理由から、ライティング教育に熱心なのです。
■アマゾンは会議でのパワポ使用を禁止している
世界随一のECサイトであるアマゾンでは、報告や会議においてパワーポイントの使用を禁止しています。会長が出席する会議での書類に始まり社員同士がやりとりする報告書まで、すべて箇条書きの文書で簡潔に作成するよう取り決められているのです。ジェフ・ベゾス会長は、これでこそ議題がクリアに考察でき、迅速かつ正確にコミュニケーションすることが可能であるとしています。
このように、企業側が会社の生き残りをかけて作文教育に投資する以上、学生を送り出す大学側も、学生たちのライティング力に対して口酸っぱくならざるを得ません。
思考力そのものが力となる時代において、書くという行為は思考力を磨くための最良かつ、唯一の手段です。
ここでもう一度、話を子どもに戻しましょう。お子さんは、論理的に考え、学んだことを理解しているでしょうか? また、学んだことを論理的にわかりやすく書く力はありますか?
■実力不足のレッテルを貼られないために
AIが身近にある現代にあって、ライティングを学ぶ人はむしろ急増しています。SNSなど文章で発信する機会が以前より増えたせいでしょうか。公私を問わず、文章がつたないと単に作文が苦手な人という印象にとどまらず、その人の実力自体を疑われかねないからです。こうした先入観を与えてしまうと、それを払拭することは容易ではありません。
逆に、文章力のある人は、作文がうまい人という印象を超え、能力のある人材として認められます。
職場で遂行する業務の多くは作文が命です。特に、不特定多数の人に誤解なく読ませる文章や、相手の心をつかむ文章が書けるライティング力は、読み手側に関心やお金、時間を差し出させることができるもので、大変重宝されます。今やプロフェッショナルの必修科目になりました。
小学生でも、論理的な思考力を持つ子どもはハキハキと発表したり、簡潔な文章で要点をまとめて書けるものです。こうした子どもたちは、ライティング力でほかの生徒たちより頭ひとつ抜きんでるだけでなく、その子ども自身の自尊感情も高まります。
■もっとも求められるスキルは「ライティング力」である
このように、小学校から職場にいたるまで、ライティング力ひとつで周りから一目置かれる存在になれるのです。職種や職務を問わず、作文力がもっとも求められるスキルとなるのもうなずけます。文章が上手に書けるということは、深く考え抜く力や説得力、広く影響を与えられる力の持ち主であるということを証明するのも同然です。勉強も仕事も人生も、望みどおりの成果を出して実力を認めさせるために重要なのは、一にも二にも作文です。また、不思議なことにこのライティング力は、一度身につけたら一生衰えることがありません。
こうしたさまざまな理由が、ハーバード大学が150年以上もの間、作文教育にまい進してきた背景です。それでも、ハーバード大学の卒業生の90%が、「在学中にもっとライティング術を学んでおくべきだった」と後悔しているというから驚きです。エリートの彼らも、文章の書き方は小学校の作文の授業からスタートしています。幼い頃から「論理的に考えて書くこと」を学んできたのです。
■ユーチューブがあってもライティング力は必要なのか
物書きで食べている人間として、私も少し前までは、「どんなにAIが発達しようと、書くという仕事に怖いものはありません」と胸を張っていました。ところが、AIがニュース記事や株式の分析レポートを書いただの、人間のコピーライター顔負けの筆力でマーケティング契約をまとめ、小説家や詩人よりも優れた作品を生み出しただのというニュースを聞くにつけ、心中穏やかではなくなりました。そしてこんなことを考えました。
「仕事に必要な作文はAIで十分こと足りるのに、私たちがライティングを学ぶのは何のため?」
時代はユーチューブ一色です。お金を稼ぐことも、学びもユーチューブで解決できます。ご存じのとおり、ユーチューブは主におしゃべりと映像でメッセージを伝えるプラットフォームです。だからこそ、こんな疑問を抱きます。
「おしゃべりと映像で解決できるのに、それでもライティングが必要なの?」
コロナ禍でステイホームを余儀なくされる間、ビジネスや教育など日常生活のあらゆる場面でオンライン化が急速に進みました。コロナ以前とは違って、今や、スマホひとつあれば、学びも仕事もどこからでも可能となりました。
「じゃあ、もうライティングは本当に必要ないんじゃないの?」
■AI時代だからこそライティング力が不可欠
こうした急速に変化する社会とライティングの結びつきについて悩んだ私の答えは、ただひとつです。
「それでもやっぱり、ライティングは重要で必要なものであり、練習すべきものだ」
AIが文章を作成してくれる時代だからこそ、むしろ人間が考えて書くライティングが一層重要なのです。なぜならば、思考そのものが力となる時代に突入したからであり、その思考力を鍛えるためにも、ライティングが不可欠だからです。ライティングはコミュニケーション手段にとどまらず、考えるという行為そのものです。思考力は、ほかの動物にもAIにもない、人間ならではの能力です。たとえ仕事をAIに明け渡すことになったとしても、そのAIを生み出し、活用できるようにする根幹である思考力だけは、人間が守り続けなければならないものです。
ユーチューブだって、意味のあるコンテンツを言葉と映像で伝えてこそ番組が支持されます。意味を持つ思考を鍛えられるのはライティング練習だけです。特にオンライン上で仕事をしたりコミュニケーションをはかろうとするならば、その意図をすばやく伝達することが求められます。それには書いてまとめることが一番なのです。
これがAI時代、オンライン時代でも、ライティングが必要とされる背景です。
お子さんたちの世代になればますます生活にAIが浸透しているでしょう。だからこそ、今からライティングを始めて考える力を鍛え、AIを活用する側にならなくては。これが、子どものうちからロジカルなライティングに取り組むことを勧める理由です。
■プログラミングを学ぶより先にライティングを
子どもにプログラミングを学ばせたいと思っているお母さんお父さんなら、基礎的なコーディングであるスクラッチのこともご存じかと思います。文法があやふやな子どもでもプログラムが書けるとして、世界中の子どもたちがこのツールで作品を作り、プログラミングで披露したり学び合ったりしています。
このスクラッチを開発したMITメディアラボのミッチェル・レズニック教授は、「しかしながら、子どもたちには、まずプログラミングより先にライティングを教えるべきだ」と説いています。「プロのライターになりたい子どもは少ないのに、なぜ?」という問いに、教授はこう答えています。
「私たちの暮らしのいたるところに文章があります。ライティングは、人に考え方を教えてくれるものです。自分自身のアイデアを体系化し、改善して検討する方法を学ぶことができるため、ライティングが上達するほど、思考力も高まるのです」
お子さんが憧れている職業――配信者、プログラマー、医師、漫画家、教師、調理師など、どんな夢もライティング力からその一歩を踏み出せます。思考力を高め、自分自身を表現し、お子さんが願う未来を手に入れる。それにはライティング力が強い味方となってくれるのです。
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大韓民国を代表するライティング・コーチ。ソン・スッキ作文センター、アイデアウイルス代表。1965年生まれ。稼げるライティングソリューションを提供し、企業と個人のマーケティングコンサルティングを担う。慶熙大学校にて国語国文を専攻し、卒業後は、放送局、広告代理店、新聞社、雑誌社、女性向けポータルサイト、出版社などで経験を積む。執筆活動歴35年、ライティング指導歴20年。『魅力ある単語、魅惑の文章』『書き写しの奇跡』など、韓国で多数の著書を上梓し、『150年ハーバード式ライティングの秘密』(いずれも日本未邦訳)は10万部を超えるベストセラーになっている。
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